Stage 14 : レイニーロード


 長靴のおかげで、ぬかるみもへっちゃらになったが、そばを飛んでいるスバメにはやはり遅く感じられるらしい。スバメに急かされても、ヒロトははーい、と返事するだけだ。
「どうせなら、特訓しながら進めたらいいのに……」
「ちゅん?」
「あの木に、“つつく”二百回とか」
 ヒロトは冗談で言ったのだが、言えばすぐにスバメは飛んでいってしまった。そのスピードは、ざっとヒロトの四倍はある。
「あ、あまり無理はするなよー!」
 スバメは、ヒロトが指した木にとまり、つつき始める。ヒロトは、それを遠目でじっくり観察した。前よりも少し威力が上がっている。
「いいぞスバメ……って、危なーい!」
 ヒロトの叫びにスバメもすぐ気が付く。出てきたのは毒針を持った虫ポケモンだった。ヒロトはすぐに図鑑を開く。
「スピアー……集団攻撃が得意……!?」
 説明を読んだだけで鳥肌が立った。スバメはヒロトの指示を待つことなく、その自慢の素早さでスピアーから逃げるが、相手はいつの間にかどんどん増えている。待ち伏せていたスピアーに、スバメはとうとう毒を浴びせられてしまった。
「ど、どうすれば……」
「ニドキング、“ほえる”!」
 違う場所から声が聞こえ、直後にものすごい雄叫びが響く。スバメは隙を見て、耳を塞いだヒロトのもとにかえるが、スピアーたちは散り散りになって去った。
 ニドキングを持っていたトレーナーは、これまたレインコートを着た女性だった。
「ふう。大丈夫?」
「や、僕は大丈夫なんですけど、スバメが……」
「あ、そっかごめん」
 スバメがニドキングの毒針に怯えていることに気が付いた女性は、ニドキングの前に立つ。
「ありがとうございます……助かりました」
「最近、スピアーが巣を作って居座っちゃって。ペンション経営者としてちょうど骨を折ってるとこなのよ」
「ペンション?」
「ええ。この道路、旅人にはきついでしょ? だからこの先に何軒かあるの。私は旦那と経営しててね」
「……なにか、手伝えることありますか? お礼がしたいんです」
 女性は、そう言ったヒロトの真剣な目を覗き込む。そして、隣で同じく真剣な表情をしながらも毒に苦しむスバメにモモンの実を渡した。
「そうねえ。じゃあ、ちょっとお仕事、やってもらっちゃおうかな!」
 明るい声で女性が言うと、ヒロトの表情も晴れる。スバメも実をついばみ、すっかり元気になった。
「よかった……! あ、僕はハツガタウンのヒロトといいます」
「ちゅん!」
「私は“ペンション・ナマズンの里”のアイレン。よろしく。……とはいえ、もう三時か。よかったらそのまま泊まっていきなよ。おいしいご飯出してあげる」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
 すぐそこだから、と促され、ヒロトはあとについていった。いつも強気なスバメは、なんとなく木を避けて進む。
「あの建物よ」
 アイレンが指した建物は、西洋風で青い屋根の家だった。他にもペンションと書かれた建物が並ぶ。
「見たらわかるけど激戦区でねぇ……スピアーを追い払って宿泊者を確保するのも、これで何度目だか……」
 アイレンの言葉に、ヒロトは訝しむ視線を向けた。それにニドキングが反応して、弁解するようなジェスチャーと笑顔で場をとり繕う。
「冗談よ、冗談」
「ハハ……」

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