Stage 15 : サファリゾーンの熱血漢


 サクハ地方東部、ヒロトが辿りついたこのイゲタニシティを中心とする地帯は、季節に関係なくよく雨が降った。雨が数滴降り出すと、ヒロトはすぐ民家の影に逃げる。数秒後、バケツをひっくり返したようなスコールが降るからだ。どうやら、ノイから買ったこの長靴はまだまだ活躍しそうだとヒロトは思う。
 そのまま町を見回すと、そこここに雨宿りをしている人を見かける。中にはレインコートを着て、スコールでもへっちゃらな人だっている。この町には浅黒い肌の人が多いようで、スコールも相まって、ヒロトはヒウメの森で出会った、ポワルンを連れた女性を思い出した。
 また、スコールは、ぱっと嘘のように止む。ヒロトは早足でポケモンセンターに向かった。

 これでもこの季節はマシなほうなんだ、とヒロトの隣で回復を待つ少年が笑った。
「そうなの?」
「そうそう。あ、でも、夏もハツガタウンとかに比べりゃマシだぜ、あっちのほうは夏に集中して降るかんな」
「そっか、なるほど。でさぁ、あっちは何の集まりなの?」
 ヒロトがそちらを見て言った。ヒロトは新しい町につくと必ずポケモンセンターに寄っていたが、ここまで人が多いセンターはここイゲタニが初めてだった。
「みんなで新聞読んで話してんの。珍しいことなのか?」
「他のセンターではもっと人少ないし、僕の家は新聞とってたよ」
「あーそうか、そっちは新聞とってんのか! こうやって旅人に聞いたら、自分の町の特徴もわかるなぁ」
 少年が言った時、ポケモンセンターのジョーイさんが、彼に回復したポケモンたちの入ったボールを持ってきた。
「みんな元気になりましたよ」
「よかったー。ジョーイさん、いつもありがとな。そんじゃバイト行ってくるー!」
「あ、ああ。じゃあなー」
「またのご利用をお待ちしてます」
 少年に手を振りつつも、バイトってなんだろう、とヒロトは疑問に思った。

 ポケモンセンターでマップを取り、回復したポケモンたちとともに外に出たはいいが、ヒロトは途方に暮れてしまった。ジムがどこにもないのだ。落ち着いて探そうにも、途中でスコールに邪魔され、自分の現在地すらろくにわからなくなる。
「ライラックさんの言葉どおりだと、あるはずなんだけど……」
 ヒロトはカゲミシティでの出来事を思い出す。あの町のジムリーダー、ライラックは、ヒロトの持つバッジが少ないと言って、ホウソノシティのオモトー、イゲタニシティのラナンを紹介した。
「ラナンか……名前はわかるんだから、どうにかなる!」
 その言葉に、通りすがりの少女が反応した。
「あなた、旅のトレーナーさん、よね? ラナンに挑戦するの?」
「……うん! 挑戦したいんだけど、ジムがどこにあるのかわからなくて」
「ジムはサファリゾーンゲートの二階にあるよ」
 少女は町の北部にある、豪快なイラストが目印のサファリゾーンゲートを指した。え、そうなの、と言ってヒロトが地図に目を戻すと、サファリの位置には「サファリゾーン(二階はジム)」と書いてあった。その地図を彼女も覗き込み、笑い出した。
「はっは、確かにこれじゃわかりにくいね! 町民にとったら当たり前のことだから、旅人にはわかりにくいって考えもなかったんだろうね」
 今度センターの人にも言っておくねと言って、彼女はまた笑った。
「ありがとう、早速挑戦に行ってくるよ!」
「ラナンはつよーいぞー、ちょっとこっちにハンデがあるとはいえ、そんなもの実力でカバーしてくる人なんだから!」
 健闘を祈る、という言葉を最後に、少女と別れた。サファリゾーンに向かう途中で、ヒロトは挑戦者へのハンデとはどのようなものか、ずっと考えていた。

 サファリゾーンゲートの二階へ行くと、そこでまたしも足止めを食らわされた。大人のジムトレーナーが一人いて、他の人は誰もいないのだ。
「このジムは十八歳のラナンと同年代か、少し年下の子が多くてねー、ほとんどの子はサファリゾーンでアルバイトしてるんだよ」
「アルバイト?」
「そうそう、小金稼ぎ。バイトが終わるまで待っててもいいけど、せっかくだから君もサファリに行ってみたら? 旅のトレーナーだよね。サファリは楽しいぞー、イゲタニ名物の熱帯雨林、そして、珍しいポケモン!」
「珍しい……ポケモン、ですか!」
 ヒロトは目を輝かせる。彼いわく、年中雨が降る熱帯雨林気候だからこそ、サクハの他の地域では見られないポケモンが多く生息しているとのことだ。
「た、楽しそう! では、行ってみます!」
「はいはーい、初めての人にサファリはなかなかきついかもしれないけど、エンジョイしてきてねー」

140605