Stage 15 : サファリゾーンの熱血漢


「意外だな。もう一匹のほうだと思ったんだけど」
 ヒロトが最後の一匹と宣言し繰り出したポケモンを見て、ラナンは言った。ヒロトが出したのは、サファリゾーンでラナンの協力とともに捕まえたサイホーンだったのだ。
「僕はこいつに賭けます」
 ヒロトは強く出たが、捕まえたばかりのサイホーンのことはまだまだよく知らない。まず図鑑でステータスと技を調べる。それが済んだら、顔を上げてケッキングの状態を見た。ワカシャモの“二度蹴り”、クサイハナの“メガドレイン”のダメージは蓄積しているはず。
 ならば。
「“しっぽをふる”、いっとこう!」
 ヒロトの指示に、ラナンは拍子抜けした。かなり低レベルのポケモンでも覚えられる技だからだ。
「まずは防御を下げて。それから……“ドリルライナー”!」
 やはり麻痺状態なのもあって先攻はサイホーンだ。しかし、この技はうまくいけば大ダメージを期待できるものの、リーチが狭い。
「土を蹴ってかわせ!」
 ラナンの指示もあり、すんでのところでケッキングは技を避けた。
「なるほどな、当たりにくい技を連続で放つよりまずは防御を下げて確実に、って作戦だったんだろうけど……結果はこうなったな」
 このターン、ケッキングは攻撃できる。ヒロトは青ざめたが、捕まえられたばかりのサイホーンは表情を崩さない。
「“アームハンマー”!」
 ラナンが言うと、ケッキングはその大きな拳を振り上げた。サイホーンには効果抜群の、格闘タイプの技だ。
 もう後がない!
 ヒロトは負けを覚悟して、それでも最後の瞬間は見ておくべきだと思い、口を結んで前を見据えた。しかし、ケッキングの攻撃が決まることはなかった。
 拳を上げたケッキングを、強い痺れが襲ったのである。
「いっ……今だ、もう一度ドリルライナー!」
 とっさにヒロトが指示する。身体が痺れるケッキングは避けきれず、次はしっかりヒットした。
 かくして、ずんという音を響かせ、ケッキングは倒れた。
「ケッキング、戦闘不能。サイホーンの勝ち。よって、勝者ハツガタウンのヒロト!」
「勝った……」
 顛末を見たサイホーンは、まるで執着などないようにヒロトのコーナーへ戻る。
 ラナンがケッキングに駆け寄ると、ケッキングは渋い表情をしながらも口角を上げた。
「ははっ……すごいな! 四匹目で倒されるなんて久しぶりだよ」
「え、そうなんですか?」
「ああ、いつも六匹目とかでさ。もちろんケッキングが相手のポケモン全員倒すことのほうが多いけど」
 勝利はしたものの、ヒロトは改めて思う。なんてポケモンだ、と。
「サイホーン、これも何かの運命だ。これからはヒロトと仲良くな」
「ガル」
 そのとき、サイホーンは初めて笑った。それを見たヒロトは、なんだかお兄さんみたいなジムリーダーだな、と思った。
「それじゃ、バッジな。イゲタニジムのエレメントバッジ! 君の旅を見守ってくれる」
「わぁ、ありがとうございます!」
 ヒロトはバッジを受け取り、早速ケースにしまった。そのケースを覗き込んで、ラナンが言う。
「ありゃ、まだライラックさんのとこには行ってないのか!」
「はい。バッジが三つ以上になったら挑戦を受けるとは言われていて、じゃあ四つ集めて行こうって」
「はは。相手の期待よりさらに上をいくってこったな、面白い。そうだな、ライラックさんだと、特にクサイハナは面白いことになるんじゃないかな……」
「え?」
 ヒロトの返事に気付かないのか、ラナンは続けた。
「カゲミシティなら、ここからまっすぐ西に行けば着くから。健闘を祈っているよ」
「……はい、ありがとうございます。行ってきます!」
 ヒロトはジムを飛び出し、まずはセンターに向かった。ホウソノを経由しないルートであるから、また新しい道を行くことになる。ヒロトはそれに心が躍った。

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