Stage 16 : クサイハナと太陽の祝福


 その道路は地平線まで見渡せた。しばらく町や熱帯雨林にいたヒロトには、まるでハツガの田舎に帰ったようで懐かしく思えた。
「道もまっすぐだ」
 ヒロトが言うと、上空にいたオオスバメが下降し、頷いた。ラナンとのバトルで唯一出なかったオオスバメだが、ポケモンセンターで喜びを共有し、それからはボールから出ている。
 カゲミは都会だから、しばらく歩けば摩天楼も見えるだろう……と歩み出した時だった。
「っっっぶねーっ!」
 背後から声がした。オオスバメがすぐ避けるのを見て、ヒロトも後ろを振り向かずに避けた。声の主は自転車に乗っていたらしく、ブレーキ音が響く。
「ごめんごめん。ここを誰か歩いてるなんてめったになくて……って、あなたヒロトじゃない?」
 声の高い女性は、自転車から降りて言った。ヒロトも顔を見てすぐに思い出す。
「……ラリサ!」
 カゲミシティでともにコンテストを見た女性、ラリサだった。
「きゃー、ってことは、バッジ集めてきたのねっ! ライラックさんに挑戦するの?」
「そのつもり。仲間も育ったよ。みんな出ておいで」
 ヒロトが青空に向かってボールを投げ上げると、旅の仲間たちが次々姿を現した。ワカシャモにクサイハナ、プルリルと、そして最近仲間になったサイホーンを見て、ラリサは感嘆の声を漏らした。
「みんなかーわいい!」
 特にプルリルが好きになったようで、ラリサはプルリルを撫でた。プルリルもラリサの腕を掴み、ぎゅうっと握った。
「ふぎぎ痛い痛い!」
「プルリル、いたずらはよせ」
 ヒロトが言うと、プルリルは口をとがらせて、ラリサから離れた。
「ふぅ。そうだ、それじゃ、ヒロトも育て屋に来ない? 私たちもお世話になってるんだけど、そこでもっとポケモンを鍛えたらカゲミジム戦もばっちりよ」
「え、育て屋なんてあるの? それじゃ……ジム戦のためにも行きたいな、案内してくれる?」
「もちろんよ」
 ラリサは自転車を押して歩き、ヒロトたちがぞろぞろと彼女に続く。わざわざ訊きはしなかったが、ヒロトはラリサの言う「私たち」というのが誰のことなのか、少し気になっていた。

 雑木林を少しだけ歩いた崖際に、その育て屋があった。岩に味のある文字で「そだてや」と書かれている。
「すごい」
「でしょ。ここ、サクハのいろんな環境を再現してるの。いろんな環境でトレーニングさせることによって、ポケモンが強くなるんだって」
 ラリサの説明を受け、ヒロトは育て屋の敷地内を見回した。ごつごつした岩場、透き通った水場、もっと奥には、サファリゾーンのような熱帯雨林が俄に茂っている。
 ふと、ヒロトの視界に影がちらついた。あちらも人影に気付いているらしく、足場の悪い場所もひょいひょい飛び越え、こちらまで来た。傍らにはヒロトの知らないポケモンがいる。
「おう、ラリサおかえり。進捗は?」
「ぼちぼちよ」
 それから、青年はヒロトに視線を移した。
「この子は?」
「あ、僕はハツガタウンのヒロトです。それと、ポケモンたち」
 ヒロトが促すと、ポケモンたちも元気に挨拶した。
「そうか、それじゃ君」
 背の高い青年は、ヒロトの目線に合わせてしゃがみ、言った。
「俺とオシャボするか……?」
 ヒロトが目を白黒させていると、ラリサが軽くどついた。
「あなたはいつもいつも……!」
「様式美だよ。俺はカルジェン、こっちは相棒のオノノクス」
「グルル」
 オノノクスは、見た目こそ屈強なポケモンだったが、笑うと愛嬌があった。
「はは、よろしくお願いします。で、オシャボっていうのは」
「よくぞ聞いてくれました。オシャボというのは、ポケモンに合ったオシャレなモンスターボールでポケモンを捕まえる、一つの趣味嗜好で……例えばオノノクスにはこれ、ゴージャスボール」
 カルジェンはボールを取り出して言った。黒光りする球体に金のラインが走っており、オノノクスのキバととてもマッチしている。
「なるほど、これでオシャボ……」
「こんな趣味のやつ、あんっまりいないけどね! 私もカルジェンしか見たことないし」
「だから俺とオシャボしてくれる人を探してるんだよ……じゃあ、まずヒロトくんは育て屋のオーナーに挨拶しなよ。オーナーは真剣な人が好きだ」
 カルジェン本人はやや軽い雰囲気ながら、隣にいるオノノクスはよく育てられていると、バッジを四つ持っているヒロトにはなんとなくわかった。それもあって、ヒロトは頷き、建物に向かった。

 150205