北の開拓者たち


 はい、今日の仕事終了。
 と、プラカードを持っていた少年少女は、会場外のベンチに腰掛けた。
「ラッセン、気になる人いた?」
「まだわからへんよ。他の四人はみんなドキドキしとうやろな、今ごろ」
「ああー。ニアはこういう場には慣れとるけん、大丈夫じゃろうけど、トランとかバンジローとかはなぁー。ダイジュもなんか危なっかしいし……」
「ってか、オーナーの決定には僕も戸惑ったしな。それはアリコも同じやろ」
 少女アリコは、黙って首を縦に振った。そして、雲がいつもより多く、そして速く流れる空を見る。
「やめてった人たち、元気にしとるかな」
「とか言ってアリコがやめんなよ」
「ラッセン、冷たいなぁ。私はやめてった人のこと心配しとるだけじゃから」
「オーナーについていけへんかったってだけで、あの人たちはみんな強い。別の場所で成功すりゃ、それが天職ってことやろ」
「そっか。ラッセンも、リーダーっぽくなったなぁ」
 どこまでも透き通ったその青さには、はじめは少し戸惑ったものだったが、今はもう慣れてしまった。ここは何もかもが解放的だ。
「さて、中は」
 ラッセンが一番近くの部屋を覗いた。赤いバンダナと浅黒い肌が特徴的な青年が勝利したらしく、小さくガッツポーズしていた。

 勝利したカグロのもとに、敗者の使用したポケモンが運ばれる。
「トレードはされますか?」
「……ああ。じゃあ、このキリンリキとそっちのムウマを」
「かしこまりました。では、カグロさんはそのまま待機していてください」

 バトルファクトリーのブレーン候補というだけあって、相手はなかなか強い。だが、今のところは余裕だった。はじめて出会う、レンタルポケモンたちと戦うため、絆とか今まで戦ってきた思い出なんてものはない。トレーナーの観察眼と判断力が全て。バトルパレスとは対照的だ。
 また、はじめはそれほど強いポケモンを使うことができない。早く強いポケモンを使いたいと思うせっかちさが、トレーナーを敗北に導く……ということも、カグロはよく知っていた。トレーナー主体のルールとはいえ、その時々で使うポケモンのことを理解することは大切だ。
 扉が開き、次の敵がカグロを見て笑う。そろそろ厳しくなってきそうだ、とカグロは唾を飲み込んだ。
 冷静に、さっきトレードしたムウマのことを思い起こす。確か“わるだくみ”を覚えている。さらに“シャドーボール”に“10万ボルト”と特殊技が豊富だ。
「試合開始!」
「ゆけ、ホエルコ!」
 ……もらった、と思うのはまだ早い。ここまで来ると、トレードのことを考え、わざと時間をかけて相手のポケモンの持ち物や技構成を調べるといった駆け引きが要求されるようになるからだ。
「行くぞ、ムウマ」

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