参与観察とはー、と、一人の少女が言うと、その場にいたもう二人の少年少女も続いた。
「研究対象となるコミュニティと共同生活をすることによって」
「その文化を深く知ることが出来る研究方法である!」
 その三人ともが、赤みの濃い褐色肌であった。熱帯雨林に住む北サクハ人たる証拠だ。
「はーいはい、パソコン使うからそこどいてー」
 家の主、ヒカミが言うと、三人はさっと場所をあけた。三人と同じく濃い肌の女性だ。
「おばちゃん、ひょっとしてもう次の研究対象決めたの?」
「また違う環境の生活になるじゃん。体調には気をつけなね」
「あいにく、それほど心配されるほどのトシではありません」
 そう言いながらも、ヒカミは肩をぽんぽん叩いた。
 USBを開くと、そこには砂地の写真と工芸品。砂漠を好むポケモンたちと一緒に、白い髪の人々が暮らしている姿が写真でわかった。
「フォルダ名は……“砂の民”ですか」
「そうそう。まさに観察しにいく人たち。色々と気になるところがあってね」
「砂漠じゃん。いくら参与観察といえど、肌の乾燥対策ぐらいは」
「はいはい、わかりましたって」
 ヒカミはUSBを抜き取り、棚に戻した。この家ともしばらくお別れだ。
「それじゃあ、またしばらく家を空ける。あんたたち三人だけなら、基地として使ってくれていいからね。ただし、資料室のものをいじらないように」
「はーい」

 熱帯雨林と砂漠。
 相反する要素を持った二つの土地が、サクハ地方としてまとまると誰が予想できただろうか。

 おんぼろ商人さん - 流砂の放浪

 それで、まずは商人であるボクに接触を試みたわけかぁ、とツキは笑った。
 ヒカミはまず、彼の全身を眺める。噂は聞いていたが、このツキという男の身なりはぼろぼろだ。
「砂の民の集住地域といえばクオン遺跡もあるけど、最近はカキツバタウンにも増えてきているでしょう。なら二ルートを経由する商人のあなたに接触するのが一番かなって」
「はは、光栄だよ。まるで研究対象になるようなやつらじゃないけど。ねーっ、リエちゃん」
 リエちゃん、と呼ばれたパッチールは、そのへんてこな足取りを一時だけ正し、パチ、と答えた。
「研究対象になっている、とは考えなくていい。普段通りでね。それが参与観察だから」
「はいよっと。んじゃ、砂漠歩きに手間取っても待たないからね」
 言って、ツキは商品の入った箱を抱えすたこら歩き出す。この擬態語がここまで似合う人もいない、とヒカミは思った。おんぼろのマントが左右に揺れ、それに合わせているのかただの偶然か、パッチールも同じテンポで身体を揺らしていた。

 行く町くる町で市場があれば、自前の敷物の上に腰掛け、ツキは商売を始めた。
「このアクセサリーとかどう。君のドンメルになら、この配色が似合いますよ」
 なるほど、ただの胡散臭い商人だと思ったが、説得力はあるし、実際売れ行きは悪くない。しばらく黙って観察していると、手伝うよう頼まれ、ヒカミは箱から荷物を出そうとしたが、中には随分怪しいものも入っていた。しかし、参与観察するたびに工芸品のレプリカを持ち帰るヒカミが言えたことでもない。
「結構やるのね」
 ヒカミが言うと、ツキは商売用の笑みを浮かべた。
「まあ、年季は入ってますから」


 ヒカミの原案はひなよりさんより。多謝!
 ⇒NEXT 150131