見たこともない都市だった。というよりも、ここまで文明が発展した土地があるとは思いもしなかった。
 今までも大都市と呼ばれる場所には行った。カナズミシティ、ミナモシティ、コトブキシティ。しかしこの街ヒウンシティは、それらを遥かに凌駕する規模だ。
 街を人が流れる。そういう表現が適切だと思う。しかも、流れる人は、髪も目も肌の色も人それぞれ。白い髪に赤い目、流行ファッションを取り入れつつも、“砂の民”の雰囲気を保つ私の外見でも、目立つことはない。
 イッシュ地方は、多様な人やポケモンが住むが、それらをまとめて「一種類」とする見方があり、それがこの地方名の由来だというが、なかなか素晴らしい、と感心してしまった。
 サクハ地方という名前は、マジョリティ先住民――所謂“アフカスの民”が、土地と伝説のポケモンを総称して呼んだ“アフカス”という言葉を、第一移民が誤読して定着した名前だ。今アフカスと言えば、ふつう伝説のポケモンのみを指す。
 この名前は大統一時代に讃えられたが、そこにマイノリティ先住民の意図はない。所詮は世間のはみだし者、都会に出れば物珍しそうな目でじろじろ見られる。
 それを考えれば、イッシュは居心地の良い場所だった。

 そう思っていたのに、砂漠を抜け、ライモンシティに出た時――「彼女」に出会ってしまったのだ。
「……アオイ」
 その憎悪の対象とも言うべきトレーナーを見た時、ぼそりとつぶやいてしまった。しかし、まず気づいたのはアオイではなく、アオイの隣を歩いていた、金髪にピンクの帽子をかぶった少女だった。
「ねえアオイ、呼ばれてるよ」
「ん?」
 アオイは、金髪の少女が指したほうを向く。当然私と目が合う。
「何の用」
 アオイの言葉は冷たかった。昔はあれだけつっかかってきたのに、今となっては興味がないのだろう。それならそれで、と私は話し出す。
「見かけただけさ。さっきちょうど、ユニランを捕まえて。砂嵐でも平気だから、エアームドとの相性もいい」
「砂嵐パーティですか! なんか強いトレーナーっぽくていいですね」
 金髪の少女が笑った。右頬の星のペイントにえくぼが重なる。その明るさが、アオイの友達であることを何よりも物語っている。
「それはよかったですね」
 アオイはそのまま去ろうとする。待ってよ、と金髪の少女が追いかけた。

 ○

 知り合いか誰かなの、と、私はアオイに訊いてみた。
「昔色々あってん」
「そっか」
 アオイは短くそう答えただけだったから、それ以上の詮索をやめて、あの人の見た目を脳裏に描く。
 赤い右目の下に泣きぼくろ。絶妙なポジションだ。
スレンダーな見た目はカミツレさん系。細いから、白い髪も白い服も似合ってる。私も背が高いほうではあるけど、ああいうのは絶対似合わないから、正直羨ましい。
 さらに、鋭さを思わせる赤いマントをしているおかげで、そのシュッとしたシルエットが強調されていて素敵だ。でも。
 そのマントは、おんぼろだった。
 そりゃ、アオイやコウライ、まっさんたちとサッカーしたら、服は汚れるけど、なんというか、そんな汚れじゃない。もっと年季が入っている。なんというか、歴戦の猛者って感じ。そう考えたら、洗練されたスタイルとはミスマッチなのかもしれない。
「また会えるかなぁー」
「えっ」
「だって、気になるんだもん! あのファッション」
「メグってイロモノ好きやなぁ」
 そう言うアオイはいつもの調子に戻っている。それだけで安心してしまい、一旦その人のことは忘れてしまった。

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この話から、本藤さん宅チトセちゃんをお借りしています。今後も出ます。