Switched Records - 02


「そっちがお前の部屋な。ベッドなくて布団だけだけど、まあ我慢してくれ」
 ルイスは少女を空き部屋に案内し、自分も部屋に戻った。
 ベッドがある以外は生活感がまるで感じられない、無機質な部屋。ふかふかなベッドに寝転び、目の前の白い本棚にきれいに並べられた雑誌のうちひとつを取った。
 研究者しか読まないような天文学雑誌だ。だが、間違いなく一流の雑誌で、論文が載ることは難しい。
 この雑誌に自分の論文が掲載されること、それがルイスの目標であり夢だった。

 最新号を読み返していると、活字にふっと影が落ちた。
「ナニ」
「わっ!」
 顔をあげると少女の顔がそこにあり、ルイスは思わず声をあげた。
「いつから来てたんだ……あっちの部屋じゃダメか? 一応父さんの部屋なんだけど……」
「トーサン?」
「ああ、ジムリーダーやってる。俺は天文学が好きだからバトルとかさっぱりだけど、父さんは強くて」
 少女は目をぱちくりさせた。
「ワタシモ」
「え? 君が?」
 ルイスの問いに彼女は首を振った。
「トーサン」
「えっ」
 相変わらず彼女は単語でしか話せないが、彼女の父もジムリーダーをしているということがわかった。
「誰だろう……テッセンさん、はちょっと歳いきすぎか。逆にミクリさんは若すぎる。となると……あ、トウキさんか?」
 自信満々で言ったのだが、少女の反応は悪い。
「えーっとな、こう、イガイガ頭してて、サーフィンが好きな……」
「? ??」
 どうやらトウキではないようだ。次に、彼女が同じように、身振り手振りで自分の父の特徴を伝える。
 前髪、目つき、それから決めポーズ。それら全てが、ルイスの父センリを連想させるものだった。
「えっ、そんな……」
 ルイスは跳ね起き、同じくきれいに並んでいるクリアブックの一冊を取った。
 その中から、父が写っている写真を指差した。
「この人?」
 少女は返事せず、ルイスの手からクリアブックを取った。
「あっ、何を……」
 そこで言うのをやめた。少女も何もいわず、ただただ写真のセンリを見つめている。
「やっぱり……? そっくり? 本当にこの人? ってことは俺たち、兄妹ってことか?」
 それには彼女は首を振った。
「だよなぁ。第一、母さんは特に変な反応しなかったんだし。腹違い……つっても、どう見ても俺たち同世代」
 ルイスが少女を見ると、少女もルイスを見た。身長もほぼ同じで、顔立ちからしても年齢は同じくらいだ。
 それから、また少女は写真を見た。
「ルキ……」
「えっ?」
「ヨバレタ。ナマエ」
「……これ見て、思い出したってこと?」
「ハイ」
 写真のセンリ――理由はわからないが、少女にとっても父親である存在――が、彼女に語りかけたのだろうか。
「俺もわからないことだらけだ、少しずつ思い出せばいい。これからはルキって呼べばいいな?」
 ルキは強くうなずいた。彼女の瞳は、涙で潤んでいた。

120223