Switched Records - 05


「いってきます」

 ルイスとルキが旅立って、三日が経とうとしていた。
 コトキタウンで一泊、そして102番道路で野宿。トウカシティの家々の屋根が見えてきたところだ。
「このペースだと、約束の日にはばっちりカナズミに着く」
 ルイスは、ポケモンナビゲーター、通称「ポケナビ」を開いて言った。
 ポケナビは、旅立ちの朝に母からもらったものだ。ホウエン地方の詳細なタウンマップや、ポケモンのコンディションや手に入れたリボンを見ることができ、さらに電話をかけることができる、エントリーコールという機能まで備えていた。
 高機能ではあるが、ルイスはもっぱらタウンマップとエントリーコールを使っていた。

 また、町以外の場所を歩いていると、トレーナーに呼び止められることも多々あった。
「俺、トレーナーじゃなくて、研究者志望なんだけど……」
「いいじゃん、そのルナトーンとソルロック! バトルもできるんだろ?」
 道路で自慢のポケモンたちを鍛えている少年少女は、みんなそう言っては目を輝かせる。ルナトーンもソルロックも珍しいポケモンだ、見るとバトルをせずにはいられないのだろう。
「もうボールに入れておこうかな……」
「待てよ! バトルしねーのか!? オイラのジグザグマは、準備万端だぞ!」
「あー、もう、するする。ソルロック、“コスモパワー”」
「ソル……」
 ソルロックは空を仰いだ。
 コスモパワー、すなわち、宇宙の力を借りて自分の攻撃力を高める技である。ソルロックの目には、たとえ昼間でも、宇宙の星々が見えているのかもしれない。
「そこからの、“念力”」
「ソールロー!」
 ソルロックが打つこの技は、やはり宇宙を感じられる色彩を放っていた。他の大抵のエスパーポケモンが打つよりも、色は暗いが、たまに青白い光が放たれるのだ。
「ザクッ!」
「あー、ジグザグマー」
「手持ちはジグザグマだけみたいだけど……勝負あり?」
「くっそー、一発も攻撃できなかった……けど、念力凄かったぜ! よーし、オイラも修行だい! まずはポケモンセンターだ」
 ルイスのソルロックを見て、周りに人が集まった。みんな子供で、ソルロックを見ている。
「……バトルか。するの? しないの?」
 ルイスが少年少女を見回しながら言うと、うち一人が、する、と言った。
 その少年に続き、みんなが口々にしたいです、バトルしたい、と言った。
「めんどくさいことになっちゃったなー。ルキもバトルする?」
「するっ!」

 何人かはルキに挑戦したが、ルキのチリーンもなかなかの強さであった。
「“さわぐ”」
「チリチリチリー! チリー! チリリン!」
「だ、だめだ……相性のいいタネボーでも、この技には」
 やがて、全員が、ルイスもしくはルキに敗れた。
「二人とも強いなぁ。一体どうしたらそんなに……」
「うーん、俺の場合は、ほんとに天体観測の手伝いさせてただけなんだけどな」
「ウソ! 絶対何かしてるでしょ」
「そーかもな。まあ、まずは君たちもポケモンセンターに行ってポケモンたちを回復させなくちゃ」
 ルイスは適当に返事をし、ソルロックをボールに戻す。ソルロックも疲れていたというのもあるが、珍しいポケモンを連れ歩いてバトルになってしまうと、予定が狂ってしまうからだ。
「そ、そうだね、ごめんねポチエナ! 行こう」
「がう!」

120227