Switched Records - 06


 トウカシティに着いて二人がはじめてしたことは、もちろんポケモンセンターでのポケモンの回復であった。
「ソルロック、お疲れ様。これから道路に出る時はボールに入れるけどいいかい?」
「……ソォ」
 ソルロックは、はい、と返事する時は、身体を上下に移動させる。逆にいいえ、と返事する時は素早く回転をする。ルナトーンは、その逆であった。
 今回は上下移動。つまり、肯定の意を示していた。
「ごめんな。夜寝る時には出してやるから。……さて」
 ルイスには、トウカシティですることが一つあった。すること、というよりも、して当然のことだ。
 この町のジムリーダー、センリ、すなわち自分の父に会いに行く。
「今から父さんに会いに行くけど、ルキはどうする? ほら、似てるってこともあるし……」
「モチロン、いくよ」
「そっか。ジムは町の北にあるから、少し休んでから行こう」

 二人は、ルイスの父センリがジムリーダーを務める、トウカシティジム前に立つ。
 普通のトレーナーであれば、その扉を開くことすら少しためらうが、ルイスにとっては、トウカジムイコール父がいる場所、だ。
 研究者らしい、白く長い指を扉に引っかけ、豪快に開けてみせた。

 扉の向こうで挑戦者を待っていたジムトレーナーたちは臨戦態勢に入ったが、その中の一人が、トレーナーたちを止める。
「待て。彼はジムリーダーの息子だ。……ルイスくん、リーダーに御用で?」
「はい。通していただけませんか」
「どうぞ」
 ジムトレーナーたちは道を通し、扉の鍵を開ける。三つの扉を通れば、そこにはジムリーダーのセンリが立っていた。
「父さん!」
「ルイス」
 ルイスの父親、センリは、特に変わったところはなく、元気そうだった。ルイスを見て、笑顔をこぼす。
「お母さんから聞いたよ。ちゃんと来れたんだな」
「全く。なめてるのか? 俺の目標はカナズミシティ、そしてその先の合宿! トウカまで来れないわけがないでしょ」
「わかってるわかってる。……ところで、扉の向こうにいるのは」
「ああ、彼女はルキっていって、……ルキ?」
 その男の視線が自分ではなくルイスに注がれているのだとわかると、ルキは逃げるような姿勢をとった。すぐさまルイスは彼女の腕を掴む。
「ルキだよ。同行してくれてる」
「そうかー。二人だとにぎやかになるものな!」
「うう……」
「……ルキちゃん?」
「色々あって。……今から話す」

 ルイスは、母に言った嘘と同じようなことを父にも話した。
「母さん、こんな大事なこと言ってないのかよー」
 全部話した後、なにも知らされていなかった父の様子を見て、ルイスはため息をついた。
「話はわかった。職なら、カナズミに行けば見つかるだろう。誰かに電話してみるか?」
「いや、そういうのはいいんだ! で、父さん」
「なんだ?」
「ルキって名前、聞いたことない?」
「そういえば……昔母さんが言ってたような」
 ルイスははっとした。母が前に言っていたことを思い出したからだ。
 やはり母親絡みで何かがあるのだ。
「なにかの名前と同じなんだよな……でもポケモンとか、そういうのじゃない」
「なんとか思い出せない?」
「……無理だ!」
 センリは、そう強く言い放った。ルイスもルキもがっかりした。

 ルキの父のことは話していない。だが、ルキは我慢ができなくなり、センリに抱きついた。
「オトーサン……」
 そう言って、また涙を流す。初めて会った少女に抱きつかれ、センリは焦りだした。
「お、おい」
「あー、これ話していいのかな……とりあえずルキ、落ち着いて」
 ルキはセンリから離れた。なんとか涙をこらえようとするが、息が乱れてうまくいかない。
「ルキ、ところどころの記憶が抜け落ちてるみたいなんだけど、どうやら彼女の父親が、父さんにそっくりらしい」
「ふむ。そりゃ俺みたいな父親は結構いるはずだぞ」
「そうじゃないんだ。雰囲気だけじゃない、顔立ちまでそっくりみたいなんだ。まるで他人とは思えないほどに……さっきのルキ、見たでしょ?」
 ルイスの言葉に、ルキは顔をあげた。
「ソックリ……」
「……不思議な話もあるもんだな」
 センリはそう言って、二人を見比べた。
「そういえば、ルキちゃんもルイスに似ているな」
「えっ」
「瞳がそっくりだ。深い青色」
 そう言われ、二人は顔を見合わせた。
「ほんとだ……」
「同じあおだ……」

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