Silent Vanguards - 02
「こんごうだま……」
「ああ。だって君、持ってるんだろ」
タクミは、アユの鞄をちらっと見る。
「バラをしまう時に見たよ。アユも、においに釣られて来たんだろ」
「はーい、したらロックのバトル、いっちゃうよー! 音楽は僕、DJ NEMOLOが担当っ! 審判はここのオーナー、つーちゃんことツワルダー、そしてダンスはー、君たちで!」
一つに束ねた青いもじゃもじゃ髪の上からニット帽をかぶっている青年が言った。
「誰がつーちゃんだ」
固い表情を崩さずに、オーナーらしき中年の男性が言った。両手にはジャッジ用の旗を持っている。
タクミの順番はすぐに回ってきた。赤旗側に、フローゼルと共に立つ。
アユは、これまで見てきて、ここのやり方は覚えていた。
まず、人がそれぞれ踊る。それからポケモンの番。それも終われば一人と一匹でそれぞれ踊り、曲が終わってジャッジ。
「いくよーっ、ジンandエテボースvsタクミandフローゼルッ! ゴーッ!」
はじめは青旗側の人が踊る。タクミの相手は、ジンと呼ばれたフードを被った男性とエテボースであった。
ジンのダンスはキレが良く、また動きも俊敏であった。
多くのダンスを見てきたアユも見入るほどで、拍手のタイミングを忘れるほどであった。
これだと、さっきタクミのダンスを見た限りでは、タクミは勝つことはできないだろう。ショーケースのダンスとバトルのダンスはまた別だが。
続いてタクミの番になる。タクミはいかにも、基礎を押さえたダンスといった感じで、目新しさはない。
だが、やはり初めに感じたオーラは健在だ。
(なんていうか……グルーヴィなんだ)
技術はジンのほうが上で、構成はタクミのほうが上、とアユは判断した。
だが、ロックダンスはやったことがないため、ジャッジとなるとどちらを取ればいいのかわからない。
となると、勝敗のゆくえはポケモン、そして人とポケモンとのコンビネーションに左右されるはずだ。
ポケモンの番になった。
ジンのエテボースは、なんというか不思議な軌跡でステージを動き回った。
移動が上手いのだ。それに、手よりもしっぽが器用というのが信じられないくらい、手もよく動く。
だが、次のフローゼルの番になると、前のエテボースはまだまだだ、と思わずにはいられない。
フローゼルもタクミと同じく基礎を押さえている。カチッと鍵をかけるところではしっかり止まる。エテボースのようにふらついたりはしない。
一番魅力的に見えるポジションをしっかり捉えているのだ。
(……初対面だけど、まあ応援しちゃってもいいよね……バラはもらったんだし。でも、こんごうだまか……やっぱりここだったのね)
バトルは終盤、コンビネーションに移った。
ここで、フローゼルのロックの上手さの真価が発揮された。一人と一匹の動きがしっかりシンクロしているのだ。
同じように動くようプログラミングされたロボットのようであって、しかしオーラが感じられる。
最後に鍵がかかったところで、曲も終わった。
「すごい……」
「キャー、タクミー、フローゼルーッ!」
後ろから誰かの声が聞こえた。タクミは声の主あたりを見て、それからアユに視線を移した。
(そういうの、言うキャラじゃないんだけどな……)
そう思いつつも、アユは「お疲れ」と言った。タクミはにこりと笑った。
「ジャッジターイム!」
ジンとタクミ、エテボースとフローゼルが握手し、拍手も止んだ頃に、DJが言った。
その一声で、その場にいた全員が審判、ツワルダーに注目する。
「スリー、トゥー、ワン……」
ツワルダーは力強く赤旗を上げ、それをタクミ側に投げてみせた。
「ウィナー! タクミandフローゼル! コングラチュレーションズ!」
また盛大な拍手がダンサーたちに送られた。
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