小さなかみさま


「ツワルダー、俺たちな、そろそろ再開しようと思ってなぁ」
 団の中でも力を持っていた男の一人が言った。
「で、まずその活動資金として、その色違いピッピを売る、と」
 俺ははっとする。さっきまで俺が考えていたことだ。それなのに、今はそれが嫌でたまらない。
「断る」
「なんだと!?」
「それから、俺はこの団からは抜けさせてもらう。もう興味もなくなっちまったよ」
 俺がそう言うと、どこに隠れていたのか他の連中も出てきて、俺にじりじり近寄った。俺はピッピを抱きかかえる手にいっそう力を入れる。
「俺たちは密猟団だ。ここから抜ける、ということがどういうことを意味するか、わかるな?」
「……お前らの逮捕には興味がない。一切口外しない」
「信用できるか!」
 同い年の男がそう言って、俺のみぞおちに蹴りを入れた。
「ぐっ……!」
 倒れそうになるのを耐える。そしてほんの数日前の出来事を思い出す。

 あの青髪のガキもこのくらい苦しんだだろうか?
 いや、女子供だ、今の俺より苦しんだに違いない。

「ここは……ポケモンで」
「っしょーがねーなァ。お前ら、ありったけ出せ」
「待てよ。こっちはドンカラスだけだぞ?」
「関係ねぇ、それに、ピッピもいるだろ。いけ!」
 かつて仲間だった連中は、かまわずポケモンを出す。俺も仕方なくドンカラスを出した。
 連中は、俺のドンカラスの強さをよく知っている。数匹の悪ポケモンで、ドンカラスに襲い掛かった。
「ドンカラス!」
「カァーッ!」
 苦しそうにドンカラスが鳴く。こんな声を聞いたのは初めてだ。
 ピッピもいるだろ、と言われても、このピッピでバトルをしたことなんて当然ない。
「はっはぁ! お前はもう密猟以外で生きる術なんてねぇんだよ!」
「所詮は俺たちもお前も、社会を這うウジ虫じゃねぇか」
 その言葉に俺ははっとする。その通りだ。
 そしてまた、さっきの決心が揺らぐ。ピッピだって、売ったほうが……。
 俺の腕から力が抜けた。そしてピッピが隙間から指を出す。

   ピッピはなにか強い意志を持って指を天に向けた。
 ……この技は。
「“この指とまれ”!?」
 それには、連中よりも俺が驚いた。こんな大群で押し寄せる中、自殺行為のようなものだ。
「ピッピピー!」
 ピッピの苦しそうな声が響く。なぜこの技を使ったのか、それがわからないくらい俺は馬鹿ではなかった。
「っドンカラス!」
 敵が全員ピッピに向かったおかげで、攻撃力の高いドンカラスはフリーだ。
「“悪の波動”」
 指示した後、すぐに俺はピッピのもとへ飛び込む。
「俺には構うな!」
 一瞬のためらいののち、ドンカラスが放った黒いオーラによって何もかもが見えなくなった。

「ピッピも、お前らのポケモンも戦闘不能。残るは俺のドンカラスのみ。……俺の勝ちだ」
「くっ」
「約束どおり、これでさよならだ。俺はお前らに関わらないし、お前らも俺に関わるな」
「……おい、行くぞ」
 どうやら新しいボスとなったような男が言うと、連中はネオンに滲んで消えていった。

 正直、自分も立っているのが限界だった。
 連中と別れ、俺はまずピッピをボールに戻した。
 すまねぇ、と言う。耳がいいピッピのことだ、ボールの外の声も聞こえているのだろうか?
 そして次に、ドンカラスをボールに戻した。二つの縮小したボールを腰につける。
「皮肉か」
 トバリシティの夜は明るい。星が見えるのなんて、あの隕石の場所くらいだ。
「“悪の波動”で決着とはな」

120615