派手ねぇ、とミオは小声で言った。
「大げさすぎましたか」
「いいえ。上出来よ」
トランシーバーを暴走させているすきに、まずは庭園に侵入。ここまでは上手くいっている。
「でも……」
大迷宮とは、よく言ったものだわ。
宮殿前の迷宮は、二人の背丈より拳二つぶんぐらいの高さのブッシュが、機能的に植えこまれ、迷路を形成しているのだ。
「大丈夫ですかね」
「こちらにも利があるわ。身を隠せるんだもの」
騎士たちよりも小柄だし、とミオは微笑む。この人の余裕はいったいどこから生まれるのか、これすらも高貴な血筋のあらわれだというのか。ヤエは色々と驚き呆れながらも、ひとつ暴走し戻ってきたロトムのすっきりした様子を見て、決意を固めた。
その時である。
「侵入者だ! 侵入者がいるぞー!」
侵入するすきはあったものの、やはりこういうところの情報伝達は速い。ひゃっ、とヤエは叫びかけたが、ミオは一つ、ボールを手に取った。
「お願いね」
あそこだ、とガードマンたちが金髪の人物に注目する。そしてそのまま四方を囲む……やいなや。
「“こごえるかぜ”」
「げ、人間じゃねえ、ポケモンだ!」
ミオの出した金髪――ルージュラの技が、ガードマンと彼らのポケモンたちに炸裂する。
「威力はないけど、攻撃範囲は広い。ついでに速く動けなくなる。いくわよ」
「はっ……はい!」
よみがえった一撃
ミオとヤエは屈んだ姿勢で大迷宮を進む。二人とルージュラがさく、さく、と人工芝を進む音だけが聞こえていた……はずだった。
真っ先に気付いたのはヤエだった。もともと神経質であるためか、異音にぞくりと反応する。
「誰か……いる」
ミオは振り返り、驚いた。そこにいたのはメタングだった。
「逃げるわよ!」
走りながら、ヤエは思い出す。メタングの特性はクリアボディ、ルージュラのこごえるかぜで素早さを下げられることがなかったということか、と一瞬冷静になってから、ミオの発した一言に絶望した。
「分かれ道だわ、別々に行くわよ!」
それだけ言い残し、ミオとルージュラは左の道を進んだ。
「う……嘘でしょ」
そう言われてしまってはついて行くこともできない。ヤエは右の道を進むが、すでに足取りは悪くなっていた。肺のあたりがぎりぎり痛み、モンスターボールを取り出すだけでどっと疲れが押し寄せる。
「た……すけて、ブースター」
ブースターが躍り出て、メタングに“火炎放射”する。
「……だめ、」
なんでこういうところで、大切な王家の庭を傷つけてはならない、と頭がまわってしまうのか!
ヤエは自分の思考回路を呪った。ヤエの声にブースターが戸惑ったすきに、メタングは攻撃態勢に入った。
人間の動きも封じられる、エスパー技でくるか。
もはや万事休すといった状況で、ヤエはそれでも、前を見据えた。
すると、見えたのだ。
「アーケン、アマルス、“岩おとし”」
いつか見た彼。朝起きるだけで幸せと言ったわりに、寂しそうな表情をしていた彼。
レベルの低い二匹といえど、同時攻撃となるとメタングにとっても痛手となった。メタングはその場をよろよろと去る。
「……間に合った、ってことでいいのか?」
「ゴウさん!」
あっちは行き止まりだったのよ、と言って、ミオも顔を出した。
「もう大丈夫。それと……なんといっても彼」
竜の司ゼンショウの協力を得るために極寒の地ドゥクルタウンまで赴いたコトヒラは、しばらくミオを含む誰とも連絡を取り合っていない。
――信じ抜く、あなたを。
まだまだ危険の眠る大迷宮の中、ミオはひとり思った。
151020