コトヒラが帰ってきたのは、じきに春がやってくる頃だった。
「おかえり」
 そのコトヒラを、フェニシティでミオが迎える。
「……ただいま。丸一年行ってたことになるのか」
「そうね。ただ、ジムリーダーに関しては……」
 ミオはふとコトヒラから目をそらす。
「どうした?」
「その、コトヒラに協力してほしいことが……」

王者のおかえり

 ミオとコトヒラの家は、領主同士の仲が良好で、互いの家に招かれたりもする。そのため、コトヒラの家に住み込みで働く召使いたちも、ミオの顔を見ればどうぞ、と道を通す。今日は、ミオと、コトヒラと、それからもう一人。
「あの、ヤエと申します。ミオさんと、それからコトヒラさんにもお世話になっていて……」
 小作ではないが貴族でもない、いわば中産階級のヤエは、コトヒラの屋敷を見上げて、ひとつため息をついたところであった。この人たち、いろいろ世界が違いすぎる。
「お友達ということですね。どうぞ」
 まずコトヒラが通り、その後ろにミオ。ヤエはその二人について行きつつも、途中で足を止めて、家具を眺めてしまっていた。
 コトヒラが二人を連れて行ったのは書庫だった。そのさらに奥に、領地の住民リストが置いてある。
「オーリ村のゴウ、ね」
「ほんとに見つかるんでしょうか……」
 ヤエが不安そうに言っている間に、コトヒラはリストの山を取ってぱらぱら見始めた。ミオとヤエも少しずつ取る。
 はじめに声をあげたのは、コトヒラでもミオでもなく、不安そうにしていたヤエだった。
「この名前……」
「“ゴウ”か!?」
「違います。でもこれ、ニアって」
 ヤエはその紙を指して説明した。ゴウと似たアクセントで話していた、サクハフロンティアの研修生をしている少女の名前だ。
「ということは、やはりオーリ村訛り……」
「待て。この子の家族構成……」
 コトヒラは、ニアについての詳細を探し出し、そして、見つけた。
「家族だ。ニアはゴウの妹だ」
「えっ」
「てことは」
 コトヒラが一つ紙をめくると、ゴウの住民票のコピーがあった。
「顔はこれで間違いないな」
 白黒写真を指してコトヒラが言う。ミオとヤエは強くうなずいた。
「詳細はわからないが、所有ポケモン・有り……兄妹も二人だけのようだし、ポケモンを持つことは珍しくないな」
 小作の中には、ポケモンを所持していない家も多かった。しかし、あまり子に恵まれなかった家では、子供のかわりにポケモンを労働力として捕まえることはよくあることなのだ。
「行くか、ミオ。それからヤエ」
「私もですか?」
 ヤエが驚いて訊きかえした。
「ああ。ミオが選んだトレーナーだ。ヤエにも、ナズワタリのジムリーダーにふさわしいのは誰か、しっかり見てもらいたい」
「……わかりました」
コトヒラ@ウモレビ地方の話はまた別口で書きたいと思っています。

040110