村の広場で、二人のトレーナーが対峙していた。
 一人は真剣な眼差しで相手を見つめるが、もう一人はどうにも納得がいかない様子であった。
 それなりに見てきた二人――ミオとゴウを見て、ヤエはこれまでの出来事を思い返す。

小作農は強者への夢を見るか

 まず、ミオは一人でゴウを探すことにした。ヤエは彼女の後ろをこっそり付いていき、コトヒラは村にすら入らなかった。
 そこでゴウを見つけ、ミオはポケモンバトルに持ち込もうとしたのだが。
「……俺、持ってるのこいつだけだけど」
 そう言ってゴウの出したのが、サナギラスだったのだ。
「見ての通りほとんど動かねぇし、村のガキどもとのバトルには勝てても、ミオさんのポケモンには勝てねーよ。傷つけるのも悪いし」
「私とて、ポケモンバトルはまだまだの身ですよ。いつものように戦えばいい。それじゃこちらからいこうかしら。ねえ、ルージュラ」
「ジュラジュララ!」
 言って、ルージュラは早速、“冷凍ビーム”を放った。サナギラスは必要最低限の動きで避けるが、身体の一部が凍ってしまった。
「サナギラス!」
 サナギラスの苦しそうな表情を見て、何てことを、とゴウはミオを見る。
「俺、まだバトルするとは……」
「では、なぜ私についてきたのですか」
 その言葉に、ゴウは何も返せなくなってしまう。
「ポケモンバトル、好きなんですよね」
「……“穴を掘る”」
 ゴウは技を指示する。そして、それが今ゴウにできる返事であった。サナギラスは重い身体をくねらせて地中に潜る。身から氷が溶け、土に伝うと、サナギラスの掘る勢いは増した。
 だから避けるタイミングが微妙にずれ、その技がルージュラに当たった。
「……よし」
「やるじゃありませんか」
 そうこなくちゃ、と。
 その時、サナギラスの変化にいち早く気が付いたのはヤエだった。ポケモンを育てる経験ならミオよりもはるかにしていたから、少しの変化でもわかったのだ。
「ルージュラ、“サイコキネシス”」
「待ってください、ミオさん!」
 だから、その技を指示するミオを止めてしまっていた。しかし、素早いルージュラはヤエの声を聞く前に技を放つ。
「どうしたの、ヤエ」
「だって、サナギラスの進化形は」
 言いながら、ルージュラの技がはじかれるのを見る。
「エスパーは悪に効果なし」
「……なるほど」
 サナギラスの身を光が包んだ。進化が始まったのだ。
「え、サナギラス?」
 ゴウは恐怖と期待を抱き、自分のポケモンの変化を見る。ヨーギラスからの進化とはわけが違う。その大きな変化を終えたとき、サナギラスの進化形バンギラスは、ルージュラに襲い掛かった。
「グオォッ!」
「これは……“噛み砕く”!」
 ミオが言った時には、ルージュラは大きなダメージを受け、虫の息であった。戦闘不能とわかり、ミオはルージュラに駆け寄る。
「ルージュラ、ありがとう。……ゴウさん、お見事」
 ゴウはバンギラスを、ミオを、それからルージュラを見て、ただただ茫然とするしかなかった。
「お見事、って。俺は何も」
「ゴーウッ! すごい声が聞こえたんだけど、バンギラスだったかー。進化してたんだねー!」
 突如、そこに乱入してくる者がいた。元気な声で、抜群のスタイルを持った――
「バリツ!」
「バリツちゃん」
 ゴウとミオがそれぞれ呼んだ時、ん、と二人は顔を見合わせる。緊張が走る中、あ、ミオさんもいるじゃないですか、とバリツは呑気な声をあげた。
040117