不思議な溝の続く地にエデルはいた。
ミステリーサークルのようだが、どうもその感じはしない。
「ゴローニャは、私の迷いが晴れますようにって、言った。私の迷いって、ひょっとして」
ルーのことだけではない。
「大学のこと……」
甲高いポケモンの声が聞こえて、エデルは足を止めた。
そこには、パニック状態になったポケモンたちがいた。
ゴルバット、ヤンヤンマ、フーディンといったポケモンたちに混じって、自分のポケモンであるはずのルーがいた。
「ルー!」
「バウッ!」
ルーはエデルを見ると吠え、ポケモンたちはエデルに襲い掛かった。
「お願い、カモネギ! キマワリ!」
エデルはカモネギとキマワリに指示を出すが、こちらは二、あちらは大群だ。
エデルは砂漠の風の中、ルーに呼びかけ続けた。
「ルー、どうして? あなたもパニックになってるの? それなら目を覚まして! わたくしを見て! わたくしもさっきまではそうだったけど、もう大丈夫なんですから!」
ルーは険しい表情を変えない。エデルはその場にへたりこみそうになったが、カモネギとキマワリへの指示を続けた。
「カモネギ、そっち……きゃっ!」
ポケモンたちに襲われ、結局エデルはカモネギとキマワリと共に倒れた。その上を風が吹き荒れる。
ルーは、砂だらけになったエデルを見下ろした。
「……ルー」
「バウ」
風が吹く中、さらに雨も降ってきた。お嬢様としてのエデルは、見る影もない。
「大好きよ」
そう言うと、ルーはそっぽを向いた。
「待って!」
エデルは、残った力でルーを抱き締めた。
「迷ってるの? あなたはもうドレイデン家のポケモンだと、言ったはずですわ! 今更真の親が見つかったところで、わたくしはあなたを譲る気はありません。それとも……」
瞳に涙が溢れる。エデルは、砂のせいだ、と思うことにした。
「わたくしが嫌いになりましたか……?」
ルーは目を見開き、小刻みに震えながらエデルを見た。
その時も、エデルの緑色の瞳は、ルーをしっかり捉えていた。
「バウ……!」
ポケモンたちは、エデルを襲うことをやめた。
自分と同じようにずぶ濡れになったルーに、エデルはそっと帽子をかぶせた。
「暑くなったり、寒くなったり……不思議なところですね、ここは」
エデルは、ルーをそっと放した。ルーが逃げることはなかった。
その両手で、カモネギとキマワリを撫でる。
「あなたたちも。わたくしの手なんかじゃ、雨よけにはならないかもしれないけれど」
二匹は、満足そうな表情を浮かべた。
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