Episode 3 -お屋敷とダンボール-


「あら、エデルさん。ごきげんよう」
 例の娘たちは、突き刺すような視線でエーデルワイスを見てくる。
「ごきげんよう」
「前と同じドレスですのね。お金持ちなエーデルワイス・ドレイデンさんなら、そんな失態ありえないはずなのに」
「単にお気に入りなだけですわ。それに、前回はほとんど着られませんでしたし。今日は別の方と、ポケモン学会についてのお話をしたいと思っているので。ごきげんよう」
 エーデルワイスは踵をかえし、そそくさと去った。娘たちは追ってはこない。
 何とかなった……。
 エーデルワイスは内心ほっとしたが、表情には出さないでいた。
 常に堂々と、輝かしく。お嬢様の基本というものだ。
 ルーはずっと自分の腕におさまってくれている。
「よかったわよ」
 彼女は、ルーをそっと撫でた。


 ――未開の大陸に出現か “ニュートラルポケモン(仮称)”を追う

 エーデルワイスが愛読している、『月刊 ポケオロジー』の最新号の小特集がそれだった。
 それは彼女でも知らないことがたくさん書かれた、興味深い記事だった。
 ニュートラルポケモン。そう云われるポケモンは不思議な光を放ち、自分の周りに渦巻くエネルギーの気を読み取り、そのエネルギーと同じタイプになれるそうだ。
 “謎の大陸”と呼ばれる大陸で現在、キングドラとニドキングの存在が確認されているという。
 なぜこんなに興味深い記事が、たったの見開き一ページなのだろうか。
 カントーやイッシュでニュートラルポケモンが発見されれば、もっと大きな特集が組まれたのではなかろうか。
「こうしちゃいられないわ」
 エーデルワイスは思わず立ちあがった。
「バウ……?」
「行くのよ。この、“謎の大陸”ってところに。ルー、あなたも来るわよね?」
 ブルーは、少し間をおいて、頷いた。

「何を考えているのエデル! そんなことしていたら、タマムシ大学携帯獣学科になんて入れないわよ?」
「でも、生物としてのポケモンの研究の最先端はこの目で見たいのですわ。ニュートラルポケモン。素敵な響きでしょう? それに、3の島は少し狭すぎますわ」
 エーデルワイスは、母親に反対されることなんて、はじめからわかっていた。夏に少し休みがとれた母親は、少しでも家族と一緒にすごしたいのかもしれない。
「いいじゃないか。お行き」
「あなたっ……」
 父親は許可をくれた。この家で、ドクター・ドレイデンに逆らえる人はいない。
「だがね、旅行計画はたてているのか? それにボディーガードだって……」
「大丈夫ですわ。同行者とは現地で待ち合わせることになっています。ポケモンは、キマワリと、カモネギと、それからブルーを連れていきますわ」
 “同行者”というのは、昨晩インターネットで知り合った、同じくニュートラルポケモンを追う、ハンドルネーム“SPAN”という、顔も名前も知らない人なのだが、そんなことを言ってしまっては両親に引き止められると思い、詳しいことを口にはしなかった。
「夏休みだけです。その大陸で、様々な見聞を広めようと思います。必ず帰ってきますから!」
「ああ、気をつけてな」
「気をつけて……はぁ、心配ですわ……」

 エーデルワイスとポケモンたち一行は、クチバシティ経由で大陸の玄関、“地図にない町”に向かうことにした。

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