野心は悔しさに増して


 思えば、天才だと言われ育ってきたキュラスにとって、このようなわかりやすい敗北経験など稀であった。
 ひとつ目が閉じられたヨノワールを見るのは、随分となかったように思えた。こいつが切り札であるから、戦闘不能になることも少ない。
「負けちゃったね、ヨノワール」
 理解したうえで、キュラスはそう声をかけた。そして、自ら願い出た手合せに快く答えてくれた彼を見上げる。
「ありがとうございました。勉強になりました」
「こちらこそ」
 セイカイ四天王の一人、トキは、やわらかく笑った。
 その笑顔を見て、自分の声は刺々しくなかっただろうか、とキュラスは思ってしまう。何せこんな状況は慣れていないのだから。
「自分と同じタイプを専門にしてる人とバトルするのが好きって人は多いけど、ゴーストタイプなら尚のことだね」
「どういう意味ですか」
「効果抜群」
「あっ」
 キュラスは思わずまぬけな表情をしてしまった。そうだ、ゴーストタイプは、自分のタイプが弱点になってしまうという、少し不思議なタイプなのだ。
 バトルにもゴーストならではの駆け引きが加わって、とさきのバトルを思い返していると、トキの視線を感じた。
「なんですか」
「真面目だねぇ」
「……それ褒め言葉なんですか」
 ぎろりと睨みあげると、それに全く怯まぬ笑顔。底の見えない男だ、なんだか悔しくなってしまう。

 今度は俺の店にも来てよ、と言われて、キュラスはトキと別れた。
 ポケモンセンターでポケモンたちの回復を待っていると、ああそうか、負けたのか、とまた思い返してしまう。こういうところが真面目なのかもしれない、真面目は悪いことではないけれど。
 確かに、サクハ地方には、キュラスより強いトレーナーはわずかしかいない。しかし、世界は広い。同じ「四天王」の座を任されているのだから、こんな容易く負けていてはならない。
 君の若さが羨ましい、と言ったのは、同じフロアの鋼使いだったか、それともチャンピオンだったか。
 ここで終わるわけもない。強くなれないはずがない。
「ポケモンたちはみんな元気になりましたよ」
 声をかけられて、ボールを受け取る。
 負けたくない。強くなりたい。そのためには、もっと強い人と出会い、戦って、できる限りのことを吸収するしかない。
「……明日、付き合ってね」
 その思いは、ポケモンだって同じはずなのだ。


水方織絵さん宅、トキさんお借りしました。霊感四天王コンビ!
食えない人だと思います(主観)。最近東西がキてます。

140202