戸惑うモンスーン


 ヒウメシティは都市としての規模は大きいものの、道は碁盤の目状に引かれており、その点ではクダイシティと大差なかった。
 だから、シャクナはこのコンクリートジャングルにいながら、道を間違えることはない。殊に行き先が、ケーンレコーズヒウメ店であったならば。
 “ケーンレコーズ”は、カゲミに本店があるレコードチェーン店であるが、わざわざこのような大きな店に来たのにも意味があった。
 地元の店には売っていないCDを、輸入盤のコーナーで見つける。ジャケット写真を見ただけで微笑んでしまいそうだったが、あくまでも真顔を保ってレジまで持っていく。
「あれ、シャクナ?」
 呼び止められて、肩がはねた。それから、何も反応せず場を去ればよかったと、後悔した。声の主のほうを見るしかないじゃないか。
 振り返れば、そこにいたのはこの町のジムリーダーだった。
「チャービルさん」
「カミナナ好きなの?」
 チャービルが、持っているCDを覗き込むものだから、シャクナは思わずそれを隠す。KAMIKAZE7のクールなロゴマークは隠しきれない。
 それから、そっとチャービルを見上げる、というかこの人、サクハにはまだまだ浸透していないアイドルグループなのに愛称まで知ってるんだ、とこっそり思う。
「……ご存知なんですか」
「まあ、私だって一応業界人だからね? それに」
 トウマくんがいるし。
「それはっ……」
 シャクナは弁解の言葉を探す。トウマとは、“SMISST連合”を組んだ時に、同年代の格闘使い同士で仲良くなった、セイカイ地方のジムリーダーのことだ。
 そして、彼がそのアイドルグループに所属しているとなれば。
「興味湧くじゃないですか、サクハにはアイドルってあんまりいないし……」
「そっか」
 いつもと違う髪型の頭を、チャービルはぽんぽんと撫でる。それから、じゃあね、ジムリーダーも頑張って、と言って去って行った。

 シャクナは一つ大きなため息をついた。それなりの変装はしたはずなのに、さすがチャービル、人の顔をよく覚えている。
 PV収録の初回盤をおしゃれな袋に入れてもらって、次からは通販にしよう、とか、チャービルさん音楽番組は持たないのかな、などと考えてしまっていた。


水方織絵さん宅、トウマくんとKAMIKAZE7、お名前だけお借りしました。アイドルヲタ記念ジェバンニ。
まだまだ恋愛には発展しない、「ちょっと気になる」程度だった頃の話。
サクハにアイドルってあんまりいないのですが、JKT48に相当するグループは居てほしいなぁと思っていますw

140114