廃線跡に咲く


 シッポウシティのカフェに設けられている、自由にディスク鑑賞のできるテレビのディスプレイ前に、二人の大人びた少年が陣取り、食い入るように画面を見ていた。
 二人の少年、即ち紫の長い髪に赤いバンダナが印象的なカグロと、緑の髪に切れ長な瞳が映えるトキヤは、最近知り合ったばかりのトレーナー同士だ。
 テーブルの端に、『イッシュリーグ名バトル3』『カントー四天王の奥義』といったブルーレイ・ディスクがうず高く積み上げられている。また、大昔のカントーリーグのバトルを収録したビデオも少しだけあった。

「タスキから“がむしゃら”に繋げる……よくあるパターンだが、リーグでも通用するんだな」
「これで相性が不利なノクタス相手に、サニーゴで勝つことができると……だが問題は次のターンだ」
 画面に映るスタジアムも、もうすぐ勝敗が決まるということで観衆が静まる。ここから先は読み合いだ。
『“不意打ち”!』
 指示されたサニーゴは、不意打ちの体勢になる。だが、読みが外れたらしく、空振りとなった。
『甘いな、“やどりぎの種”!』
 そのノクタスの技によって、サニーゴは種を植え付けられ、わずかな体力を奪われた。
 サニーゴ、戦闘不能。青コーナーの勝利に終わった。

「なるほど……ノクタスのトレーナーは、サニーゴが覚えられる唯一の先制技が“不意打ち”って知ってたんだろうな」
 画面をポーズし、カグロはグレープフルーツジュースがまだまだ残ったグラスを持ち上げた。
「ああ。補助技としては、“砂嵐”を覚えさせることがベターだよ」
「だよな。そもそも特殊型っていうのが、相手には運が悪かったな。俺のノクタスだって物理型だし……」

 一通り見て、二人はため息をついた。トキヤがディスクをまとめる。
「これで今回のレンタル分は終わりかな」
「なんか……先が思いやられるな。プロに近いやつらのバトル見まくって……」
「なあカグロ、明日早朝、バトルしないか?」
「……いきなりだな」
「バトル見てたら、俺もしたくなってきたんだよ。都合悪いか?」
「そう誘われたら、乗るしかないな。俺だってそうだし。場所は?」
「明日八時、廃線跡で」

 約束どおり廃線跡にカグロが現れた時には、トキヤは既にそこにいた。
 シッポウシティの南西部、なぜかここだけは線路まで放置されており、格好の遊び場となっているのだ。

「俺たちのことだ、使用ポケモンは三対三」
「わかっている。出番だ、シンボラー」
「ゆけ、木ノ葉!」
 カグロのシンボラー、そしてトキヤの木ノ葉と呼ばれたリーフィアが線路を挟んで対峙する。
 相性では、リーフィアが不利。“シャドーボール”があれば効果的なダメージを与えられるが、大抵は物理アタッカーとし ての活躍を期待されるリーフィアには不向きな技だ。となると、相手は交代するだろう。
「戻れ、木ノ葉」
 カグロの思った通りであった。トキヤはリーフィアをボールに戻し、別のボールを取る。
「よし、“どくどく”だ」
「こいつしかいないだろう、ゆけ、黄泉」
 トキヤが繰り出してきたのは、カグロの手持ちと同じ、シンボラーだった。
「……“マジックガード”か!」
「まあ、俺も今持ってたし、シンボラー同士で戦うのもいいと思ってね」
 カグロのシンボラーの攻撃技といえば、サイコキネシスとエアスラッシュくらいだ。相手にシンボラーを出されると、必然的に選択肢はエアスラッシュしかない。しかも、先攻で撃てるかはわからない。
「“追い風”」
「“シャドーボール”」
「パクパッ」
 動くのはトキヤのシンボラーがわずかに速かった。エスパータイプに効果抜群のその技に、カグロのシンボラーは大ダメージを受けるも、羽ばたきと念の力で風向きを変えた。これで次からは確実に先攻だ。
「“エアスラッシュ”」
 追い風に乗って、鋭い一撃。トキヤのシンボラーは怯んで動けなかった。
「黄泉! ……ひょっとして、“シャドーボール”持ってないのか?」
 トキヤの問いに、カグロは答えなかった。その通りだったからだ。
「もう一度エアスラッシュ」
「次は怯まない。シャドーボール!」
 エアスラッシュは空振りしなかったものの、トキヤのシンボラーは、そのままシャドーボールをぶつけた。
「シンボラー!」
 カグロのシンボラーが戦闘不能。これでトキヤが一歩優勢だ。
「戻れ、シンボラー。次は……マニューラ!」
「マァーニュ」
 まだ追い風は吹いているが、元々素早いマニューラには関係のない話だ。
「浴びせてやれ、“冷凍パンチ”」
「マニュッ!」
 その素早さで、シンボラーに氷のこぶしを突きつける。あまりの冷たさに耐えられず、今度はトキヤのシンボラーも戦闘不能になった。
「黄泉……お疲れ様」
 トキヤはまた、ボールを取る。リーフィアのボールとは別のものだ。
「ゆけ、真熾!」
「バックー!」
 ましゃ、と呼ばれたバクフーンは、ボールから出るなり灼熱の炎を上げる。
 カグロはポケモンを交代しようとも考えたが、最後の一匹でバクフーンの技を受け切れるとは限らない。となると、マニューラには攻撃技を指示するべきか。
「……“リフレクター”」
 トキヤにはその技の意図はわからなかった。バクフーンといえば、普通は特殊型。何を読んでのことだろうか。
「だが、これで終わりだ、“気合玉”」
「やっぱりな……」
 気合玉は命中率の悪い技だが、マニューラにはきれいにヒット。ダメージ四倍ともなると、一撃目の攻撃であろうと体力は尽きてしまう。
「……戻れ、マニューラ。これでいいんだ」
 カグロは、その場に倒れたマニューラをボールに戻した。
「……」
 三匹目にどういったポケモンが来るのか。リフレクターの効果はまだ続いている。
「頼むぞ、ハピナス!」
「ハピナス……? いいだろう、真熾、もう一度気合玉だ!」
 だが、次の攻撃は外れた。そこで、カグロのハピナスの得意技が放たれる。
「“破壊光線”!」
「は……?」
 ハピナスは、バクフーンに、そのあまりにも似合わない技を放った。
「特攻型……?」

「あーあ」
 バトルが終わって、二人は線路を挟んで芝に寝転んだ。全力でバトルしたため、汗がしたたっている。
 まだ元気なリーフィアがトキヤに近づく。トキヤは寝転んだまま、自分の髪と似た色をしたそのポケモンのあごに触れた。リーフィアは、きゅうん、と気持ちよさそうに鳴く。
「負けちまった。さすがに、リフレクターだけじゃリーフィアには敵わなかったか」
「まあ、破壊光線は反動もあるしな……でもハピナスが特攻型なんて、驚いたよ」
「あのノクタス見て、久しぶりにバトルさせたくなってな。タマゴから孵った時に、その時考えてた技編成には合わなかったんだが、特攻の才能がありそうでさ。そのまま育てたってわけだ」
「でも、もう二度と見たくないな……ハピナスが破壊光線なんて、言っちゃ悪いが嫌だよ」
「俺も躊躇しなかったわけじゃないんだが、才能を生かすならこうだな、ってな。あー、でも負けたのは俺だ。次はリーフィアのリーフブレード対策を……」
「随分ピンポイントだな。でも、ポケモンの才能を生かす、確かにトレーナーとしてもっと上に行きたいのなら、必要なことだよな」
「だろ」
 カグロがそう言うと、どちらからともなく、シッポウの空を見上げる。そして、辺りに二人の笑い声が響き渡った。


ひなよりさん宅トキヤ君お借りしましたー!
そしてはじめてのバトル交流SSです。二人とも廃人なので、それっぽく…なって…いないような。笑
二人が上を目指すように、私はバトル描写のスキルを上げたいです。
そしてその時にはまたお借りしたい!
111214