わたしがそう思ったんだ


「まぶしい」

 無事にサクハに着いた船を降りると、景色よりもまず目に飛び込んできたのは青い空。「まぶしいくらい良い天気ですね」と後ろの人に声を掛けられ、独り言をつぶやいていたことに気付いて、少し恥ずかしくなった。
 しかし、本当にまぶしい。この地方はいつもこんな天気なのだろうか。顔に受ける風は、今まで海の上に居たせいもあるかも知れないが少し乾いているようで、太陽の光がより強く感じられる。帽子を被っていてよかった。

 港を出て街を歩いていくうちに、空の青さには次第に慣れていった。もしかしたら、ここに来る前に旅をした地方がずっと薄暗かった(と感じていた)ため、目が健康的な空色にびっくりしたのかも知れない。

 せっかく天気が良いので、リリとサンを外に出す。ミカは昼は苦手だし、ウパは昨日の船旅ではしゃぎ過ぎたのか眠たそうにしている。そしてもう一つ増えたボール、ウインデイのディーに「出る?」と聞くと、ディーはぷいっとそっぽを向いた。
 まだ完全に気を許してくれた訳じゃないのかな、と落ち込む暇も与えずリリは初めて見る景色に興味津々で、早く行こう早く行こうと光っている。サンも珍しくはしゃいでいて、放っておいたらどんどん先へ行ってしまいそうだ。二人とも元気だなあ、と笑ってしまう。
 道でショップを開いているおじさんにタウンマップを借りると、どうやらこの地方にも遺跡があるらしい。これは自称遺跡好きを名乗っている以上行かなくては! と、まずはクオン遺跡を目指すことにした。

 サクハ地方に来てから数日が経ち、わたしは遺跡を目指しながら観光を続けていた。色々な街を通って来たが、行き交う人々を見ると実に様々な人が居ることに気付く。それは洋服や肌の色だったり、ちょっとした文化の違いだったり。色々な景色が丁度良いバランスで街を彩っている、そんなイメージだ。
 平日だからか人通りは少ないが、公園に着くと楽しげに遊ぶ親子がみえた。あとは、噴水で水浴びをするポケモンや、ベンチの傍でギターを弾きながら歌っている女性。気持ちの良い歌声を聴かせてくれた彼女のギターケースにチップを落とすと、やはり良く通った声でありがとう、とお礼の言葉。
 君はあまり見ない顔だね、観光かい? ええ、そんなものです。簡単な会話の後、また練習に戻った彼女の邪魔をしないよう、静かに立ち去る。きっと彼女は明日も、この場所で歌うのだろう。
 公園を抜けると、遺跡はすぐ目の前に現れた。

「遺跡だー!」
「ぱるるー!」

 どこの地方に行っても、まずはやはり遺跡観光に限る。その土地が現在まで残してきたものを、少しではあるが垣間見ることができるからだ。残っている壁は建造物の名残か、それとも何か別のものか?地面や壁に手を付いて、土の感触は……? 旅に出てからしばらく経つが、元研究員の好奇心はまだ健在だ。
 イタズラ好きのサンにその辺を勝手に掘らないように注意して、くるくると遺跡を見て回る。一通り見終えると、思ったより疲れていた。いい年をしてはしゃぎ過ぎたかな、少し反省。
 スカートについた土ぼこりを払って空を見上げると、やはり今日も綺麗な青色をしていた。わたしはこの青が好きだな、と、ぐるり見渡すと遠くに背の高い建物が見えた。何だろう?

「ポケモン、リーグ?」

 タウンマップを辿って、見つけた名前。久しぶりに見たその文字を呟いて、飲みこむ。旅に出たは良いもののどうしていいか分からず、がむしゃらにバッジを集めていた、あれはもう遠い昔の話だ。
 今は違うと、はっきり言い切れる自信はない。
 けれど、あの頃よりは強くなっていると思いたい。トレーナーとしてどこまで強くなれたのか。
 そういえば、 久しく公認のバトルには参加していなかったと、そこまで考えて、
 ……もしかして、わたしは腕試しがしたい? ……違う、いや、違わない。

「ねえ、リリ……」
「ぱるぱるっ!」

 聞く前に答えられてしまった。
 彼女には、わたしが何を考えているのか、言わなくても分かってしまうようだ。そしてリリは最初から分かっていたと言うように強く頷き、光った。まるでわたしの背中を押すように。

 もう一度空を仰いで、高くそびえるリーグを見つめた。そして一歩踏み出し、次の目的地へ向かう。

 今度は自分で決意をした。迷いはない。


へちょさんに頂きました!
ギタリストとか遺跡からリーグが見えるとか、細かい設定使っていただけて感謝!