※拙作『紫の瞳』の続きになります

瞳が綺麗、と言われた。

紫の瞳・その後

「ご、ごめんなさい! 今の忘れて!」
 どこかで会いましたか、と聞く前に走り去った背中を見送った。知らない人に瞳の色を褒められたのは初めてだ。……知らない人?
 本当に、知らない人だっただろうか。と、不意にどこかの記憶がフラッシュバックした。暗い茂み、緑色の目、デンリュウ、カゲボウズ……
「なあキュラス! 今あっちのフロアでさ……何むつかしい顔してんだ?」
「……何。思い出せそうだったのに、タイミング悪い」
 なんだよそれ、酷くね?と訴えてくる兄は無視する。…今の所為で、どこまで思い出したか忘れてしまった。そういえば、顔もしっかり見ていなかったな。あーあ。

「……そう。ここまで来たということは、あなた私の兄に勝ったのね」
 負けてしまうなんて情けない兄、と口では言いながら少し悔しかった。ラナンは決して弱くない。それに、ここに居るということは、  この挑戦者は兄を含めたジムリーダー達は勿論、ボリジとミーナにも勝ったのだ。そして彼女はつい先ほど、三人目の四天王…ホウセンまで破ってしまった。実力は認めなければならない。
「イゲタニジムのラナンさん……彼のケッキングには、もう少しで負けてしまうところでした。運が良かったんです」
「……あなた、私の兄がラナンだって、どうしてすぐにわかったの?」
「えっ? あ、……えっと、なんとなく似てるなあって、思って……」
あはは、とぎこちなく笑う。それが、キュラスちゃん、と私を呼ぶ誰かの声と重なった。

『ほら、もう大丈夫だよ』
『……瞳が綺麗だな、って、思って』

 いや、考えるのは止そう。挑戦者はすでに態勢を整えている。そして自分も、また。
 私はサクハ四天王。今は全力で戦う、それだけだ。

「リリ、おねがい!」
「いって! ヨノワール」

 彼女の瞳は緑の炎のように煌めいていた。

(そういえば、さっきの挑戦者……)
(やっぱり、どこかで会ったことあるような)
(……ま、いっか)


へちょさんに頂きました!
熱いっ……! そしてキュラスがこんなに可愛いなんて夢のようだ