二本葦は夢を見る


 なぜだ。

 私はバトルでは勝てるのに。

「なぜリズム感がない!」

 そこで、派手に雷の音が鳴った。町がいちどぴかっと光り、古い橋とともに十字を描いた。
「また始まったぞ、なぜ勝ってやらない」
「だってリード普通に強いんだもん。てかそろそろ橋に雷落とすのやめろよ」
 リードと呼ばれた少年と対峙していた少年は、傍観者のうちの一人を横目で見た。
「や、ここまで来ると様式美かなって。やめ時がわからん」
「エモモ」
 バトルが強いにも関わらず、リードが志すのはエリートトレーナーでなく、イッシュ・フィルハーモニックの指揮者であった。
 しかし、天はそんな彼に才能を与えなかった。リズム感というのがまるで皆無なのだ。
「ああ、神様、ゼクロム様……」
「前から思ってたけどなんでゼクロムなの? 雷だから?」
「バッカお前、理想だからに決まってんだろ」
 そう話す友人たちをギロリと睨む。どうせ彼らは全員リードには勝てない。手持ちポケモンをボコボコにされて、ポケモンセンターのないこの町で泣きを見るのは彼らのほうだ。
「なんで私は駄目なんだろうな」
 言って、鮮やかに勝利してみせたガマガルを見やる。リードがしゃがんだ時、ガマガルはそっと“メトロノーム”を差し出した。

 ソウリュウシティのホールで聴いた演奏がよみがえってくる。『ミアレのイッシュ人』の、甘く情熱的な旋律を描く。
 オーケストラなんて、と興味なさげに両親について行ったわけだが、その演奏がリードに新しい価値を与えたのだ。あのオケ隊員を前に指揮棒を振りたい、と。

「やっぱり捨てられないよなぁ」
「ゲーロ」
「天から与えられないなら、自分でなんとかするしかないか。ガマガル、また練習付き合ってくれよ」
 ぽん、と背に触れると、ガマガルはコブを振動させる。波立つ水がいつもより激しくて、リードはぎょっとした。
「脅かすのやめてくれよー!」
 リードの強張った表情をよそに、ガマガルは優しく笑った。


なぜ書いたし。ともあれ新キャラ登場です。

140114