青春ストライプ 恋情編
〜レッドカードで一発退場!〜


 1

 チェンスがチャンスを作り出す
 カロスが生んだストライカー
 チェンスはチャンスを逃さない
 ゴールネット揺らしてくれ

 突然、英語のチャントで背中を押された。
 ああ、ライモンジーブラーズ。少し前まで在籍していた、イッシュはライモンシティのサッカーチームだ。
 今はカロスの代表戦だからなのか、ご丁寧に「ジーブラーズのストライカー」の部分が「カロスが生んだストライカー」に変えられている。
 相手――ラムジ代表はまた一段と力をつけてきている。親善試合とはいえ、本気で挑めば得られるものは多いだろう。
 まだいけるさ!

 ○

 さすがに察してくれたのだろう、チェンスは出待ちをしていたメグのもとに会いに来てくれた。
「お疲れ様。ナイスアシスト」
 いつものようにメグが切り出す。あの後、チェンス自身がゴールネットを揺らすことはなかったが、良いクロスを上げ、先輩選手が決めてくれたのだ。結局それが勝敗を決した。
「メグちゃん。よくこんなところまで……ジーブラーズでの最終戦でも幕をくれたのに」
 チェンスの契約終了が決まっての最終戦、メグは、コールリーダーとしてクラブを応援し、最後に他のサポーターと作った「Thanks, Chence」という幕を掲げたのだ。
「だって、サッカーにはまったきっかけの選手なんだよ? あとは……ラムジ代表を見れる機会ってあんまないじゃん」
「おいおいカロス代表はいいのかよ?」
「ストリーミングでいつでもやってるじゃん」
「まあ……な。そんな時代にここまで来てくれたのか」
「大変だったよ、もー」
 この試合を観る前に、ミアレの街中でサーナイトに襲われ、病院搬送と、メグには散々な事件があった。マスコミに囲まれる中、ある女性の計らいでメグは病院を出ることが叶い、ギリギリで試合に間に合ったのだ。
「それに、言い忘れてたことがあるの。チェンス、次はフウラ・エアロブラストに行くんでしょ。じゃライモンジーブラーズとは同じリーグだよね」
「ああ」
「私はジーブラーズのコールリーダーだから、チェンスがいなくなってもクラブを応援する。でも、チェンスは容赦しなくていいからね。ジーブラーズに全力見せてやって!」
「……言われなくとも!」
 ジーブラーズで力をつけ、故郷カロスの代表選手にも選ばれたフォワード、チェンス。
 彼からサッカーの魅力にはまり、やがてはライモンジーブラーズのコールリードをするようになり、今では多くのサポーターたちを引っ張っているメグ。
 選手とサポーターという立場の違う二人だが、交わした握手は、とても固かった。

 数日間続いたミアレシティの事件は解決し、あの日メグを襲ったサーナイトも正気を取り戻したと知った。めでたしめでたし。では私もイッシュに帰ろうか……とした時、メグの端末にめでたくない通知が届いた。
「えっ、コウライ!? 負けたの!?」
 それはライモンの男友達、コウライが「チャリザードU-20二部」のグループリーグで負けたことを知らせる通知だった。
「えっ……ここで勝ち上がれたらイッシュに戻っても一部で登録できるって……」
 チャリザードカップ。もとは合衆国の東海岸でのみ行われていたポケモンバトルのリーグなのだが、近頃メガシンカでリザードンの権威が高まったカロスなど、欧州の数地方にも広がった大会だ。コウライがカロスに行くとメグに告げた時、時期が合えばあちらのチャリザードにも出ると話していた。
「コウライ・カンザキ……苗字も同じ、間違いない……どれどれ。あっまだ未消化試合あるじゃん! これに勝てたら」
 勝点を見ると、最後の一人にグループリーグで勝てたら決勝トーナメントに出られる計算だった。
「……でもなぁ。あいつ結構前の試合の結果引きずるタイプなんだよなあ、ああ見えて」
 たまに負けるから応援しがいがある、と本人に言うと、軽くど突かれたことがあった。しかし、今はその気持ちに近い。
「……それにさ、」
 コウライはどうなのかさっぱりわからないが、メグにその気がないわけではないのだ。
 ポケモンバトルよりサッカーが好きで、コールリーダーとして常に応援しているクラブもある。交流した他チームサポーターのゴール裏に遊びに行き、一緒に応援することもある。それに加えて、ポケモンバトルで他の個人を応援するなんて、本来は飽和状態なのだ。
「それでも応援してるなんて……ねえ」
 コウライは気づいているのだろうか。
 会えば、何かが変わるだろうか。

 振り返って、フウジョタウンのサッカースタジアムを見上げる。異国カロスで、英語でチャントを歌うことはそれなりの勇気を伴った。
 それでも、チェンスはアシストで応えてくれて、良い送り出しもできた。
 全てはコールリーダーとしての経験の賜物だ。
「……もう一度、やるしかない!」
 そう言ってメグは振り返り、バスを待ちながら、携帯端末で今日の宿を探した。

 2

 メグが襲われた。
 名前は報道されなかったし、もう二年は会っていないが、画面に一瞬だけ写った金髪の女性は、間違いなく幼馴染のメグだった。
 その事実が、確かにコウライのペースを乱していく。
「そない心配やったらメッセージの一つでも送ったら?」
「ヒナさん……いつの間に」
「ヤマトがえらい困った顔で助け求めて来てなぁ〜。ポケモンに気い使わしてどないすんねん」
「んー……」
 手を伸ばすと、ウォーグルのヤマトが甘えてくる。トレーナーがこの調子でも、怒ってはこない。こんな状況でコウライは安心して良いのかはかりかねていた。
「ニュースではもう、ミアレの件は解決したゆーてたやん。うちもあの子信じてるし。それか何なん、メグちゃん信じてへんの?」
「ちげーよ! オレはなぁ……! ただ……」
「可愛い妹分が心配?」
「妹……ってか……」
 三歳下のうるさい幼馴染。コウライにとっての認識は、ここで止まっているはずだった。そこで止めておけばよかったのに、二年前の別れが、ずっと尾を引いていた。
 見送る笑顔。笑顔はメグのトレードマークでもある。しかしその直前、カロスへ行くと告げた時の、その表情を見逃すわけがない。
「まあ……ずっと幼馴染ですしぃ?」
「今時ネットがあるやろ」
「向こうは旅行じゃん?ほら受信に追加料金でもかかったら迷惑…」
「はいはいやらへん言い訳〜。メグちゃんもカフェ探すやろ。それとも何、うちからメッセージ送っ」
「それはダメだ」
 随分と凄んでいたのか、ヒナタよりもむしろヤマトが引いていた。ヒナタはヤマトにバイバイし、踵を返す。
「ほんっまおもろいわぁ、自分ら。決勝トーナメント絶対上がって来いやーめっちゃ楽しみやわ」
「ヒナさん酷くね……!?通過確定だからって余裕かよ……」
 ヒナタがさり、ヤマトがコウライの顔色を伺う。
「ま、オレも心配しすぎだよな! ヒナさんと喋ってすっきりしたぜ」
 コウライはそう言って笑うが、長年の相棒、ヤマトはわかっていた。彼の真意は、ここにはない。

 離れることを決めたそばから、好意を自覚するなんてみっともない。何より非効率的だ。
 ただの幼馴染を女の子として可愛いと思えたのは、はじめてチガヤに勝った時だ。サッカーの時みたいに、ただクラブではなくコウライ個人を応援してくれて、勝った時も一緒に喜んでくれた。ただあの時は、ライバルに勝った喜びで高揚していたし、何もかもがいつもより輝いて見えただけなのだ――
「あでで!」
「クルクルッ!」
 過去に思いを馳せていると、ウォーグルのヤマトが嘴をぐりぐり当ててきて現実に戻してくる。ウォーグルが示す先を見ると、時計は試合開始十分前を指していた。もう入場しないと失格扱いになってしまう。
「やっべー! 巻くぞ!」

 ○

 他意はない。
 ただ、せっかくカロス地方まで足を運んだならば、幼馴染の試合の様子も見ておいたほうが、お土産話は増えるというもの。
「……だってのにさぁ」
 コウライは押されている。シュバルゴのナイトは攻めも守りもできるオールラウンダーだが、守りを連続で指示して失敗だなんて、かなり初歩的なミスだとバトルに詳しくないメグでもわかる。
 私がいなくても勝てたみたいね、と優雅に場を去る――という選択肢がまず無くなった。
 ではこのまま眺めるか、応援するか。応援といっても英語でしかできないから、この場では浮くだろう。
「……エルさん、タムさん、バンドのみんな。……そのハチャメチャっぷり、数十年越しに借りてくから」
 そう呟いて、応援旗を持ち上げる。まず観客席がざわめき、コウライは振り返りこそしないものの、その仕草で観客席に変化があったことは察しているのだとメグにはわかった。
「ごっさん、いっくよー!」

 Hey Korai Can you hear me?

「……は?」
 呆れた顔で、コウライは振り返る。
 それもそのはず。この曲は、お遊びカバー曲が中心のあのバンドで、唯一のオリジナル曲なのだ。当然観客席に知るものはいない。

「コーライ! オーライ!」
「コーライ! オーライ!」
 どちらも「all right」と歌われるフレーズを、コーライと替えれば、理解した観客もコールに加わる。
「カロスまで来てグループリーグに敗退するトレーナーじゃないだろー!?」
 コールリーダーになり、培った声量と、すっかり板についた男言葉で、コウライを激励する。隣ではごっさんがトランペットを吹いていた。
「……ノー! その通りだぜ」
 コウライはそれだけ言い放ち、シュバルゴに指示する。
「ナイト、剣の舞!」
「今更能力を上げてどうなるっての! また炎の渦で……」
「起死回生!」
 炎技で削られ、威力を増したその技が相手を襲う。これが決定打となった。
「シュバルゴの勝ち。よって勝者、ライモンシティのコウライ! また決勝トーナメントへの進出も確定」
「やっっっ……」
 たー! と叫びたいところなのだが、メグは一旦その場から退くことにした。自分のしたことを思い出したのだ。
「チャリザードってU-20は衛星放送でもやってんだっけ……エルさんタムさんどう思うかなぁ。胃が痛い……」

 ○

 一方その頃イッシュ地方。
<なーなーエルサン聞いたか? めっちゃおんもしれーんだけど!>
<もーアタシも久し振りに爆笑したわよ! ところで、なんでタムじゃなくてティム坊が電話かけてくるわけ?>
<決まってんじゃねーか、タムがダイニングで項垂れてっからだよ>
<あー、あそこ作詞したの、タムだっけ……>

「そこ、電話してんじゃねーよ……!」
「ギャー、ダディ! いつ誰にかけようと自由だろ!」

 3

 別のブロックの試合が始まり、場外は沈黙していた。
 今応援しなければ後悔する。その思いだけでここまで来たから、気分はすっきりしている。
「おーいー!」
 では帰ろうか、と思ったところに、その声が自分めがけてかけられていることに気づく。
「メグー!」
「えっ」
 両手を広げて駆けてくる彼、コウライを無視し、メグはシュバルゴのナイトと抱き合う。
「やったねナイトー! カッコ良かったよ」
「シュシュ!」
「っおおおおい!」
 コウライの突っ込みを受け、メグはコウライのほうに向き直る。
「……で?」
 我ながら冷たい態度だと思ったが、合わなかった時間というものがあるのだ、メグとて付き合ってもいない、もっと言ってしまえばはっきりしない異性とそこまで触れ合いたいとも思わない。
「襲われたってほんとか!?」
「え」
 不意をつかれた。自分の話が大好きなコウライから、まずメグを心配する言葉がかけられるとは思っていなかったのだ。
「気をつけろよ!」
「そっちこそ予選敗退しかけて大丈夫?」
「何も言えねえ……」
 久しぶりでも、少し意地悪をしても、異国の地で昔のように話せている。その事実がメグには嬉しく、顔も綻んでしまう。
「大丈夫! この通りぴんぴんかなーここまで応援しに来る余裕があるくらいだし?」
「あのチャントさ……」
「うん? 自信作だよ」
「間違いなく母さんが爆笑してる」
「ふふ……あのさ、心配してくれてありがとうね」
 珍しく気遣って貰ったのだから、このぐらいは伝えねばならない。目を見て言うのはなんだか気恥ずかしくて、コウライの鼻を見て言ったのは内緒だ。
「メグ。……決勝トーナメントも応援してけよ」
「えーっ何それ」
「応援してくださいっ!」
「他にエルさんたちのオリジナル曲ないの?」
「ないな……」
「だよね」
 ならばどう応援したものか、とメグは考えたが、別にサッカー基準でなくても、声をかけていけばいいのか、という結論に至る。
「わかった。優勝したら賞金で滞在費出してね」
「へーへー……」

 ○

 メグと別れたあと、あちゃぱー、と後方から声をかけられ、コウライは振り返った。そんな言葉をかける人間はこの場に一人しかいない。
「ヒナさん」
「メグちゃん、付き合ってもない男子とハグしたないって」
 ヒナタは仁王立ちで言い放つ。
「何だよそれ本人が言ったのか!?」
「いや自分わかりやすすぎやねん、なになし崩し的に付き合いたい思てんねん、男見せんかい」
「えーオレもうハタチだぜ!? 何回かハグしてデートしたら自動的に付き合ってることになるのが大人の恋愛ってもんで」
「あんたが大人の恋愛語るとか片腹痛いわ」
「ヒナさん、やたら厳しくねえか……?」

 コウライが言ったところで、二人の携帯端末に通知が来た。チャリザードカップの公式アプリからだ。
 決勝トーナメントでは、コウライとヒナタの名は、決勝戦であたる可能性のある位置にあった。
「ほほーう……」
「チガヤとアオイちゃんはもう一部なんだ……今回一部に上がれるのは上位二人、絶対負けられねえ」
「言うとくけど、うちが昇格決まってるからって決勝で当たっても……かっこ良く勝たせたったりはせえへんで」
「なっ……トレーナー同士だ、当たり前だろ!」
 シュバルゴのナイトがコウライの頬を突っついてくるのを見て、ヒナタはふっと笑った。完全に見抜かれていた。
 しかし、メガシンカやフェアリータイプなどの研究で、一般トレーナーの世界順位が急上昇したカロスのトレーナーの実力は伊達ではないと、この大会でもコウライは感じていた。これからは決勝トーナメントだ、一敗すればそこで終わり。
「ナイト、気合入れ直すぞ! まずは皆で特訓だー!」
 まずは走り込みから。全員を出せば、足音も大きい。どたどたと、それぞれの速さでダッシュを始めた。

 ○

「こりゃうちらも負けられへんなぁ。……なあ、ソーニャ?」
 そのまま走っていってしまったコウライたちを見送り、ヒナタも相棒のムシャーナに話しかける。
「まずは場所確保といこか。テレポート!」
 そう言って、彼女もその場から消え去った。

 4

 ドラマのヒロインは、なぜ意中の男子と話すタイミングで可愛くなれるのだろう。メグは見た目のおしゃれはドラマのヒロインたちに並ぶレベルだと自負していたが、中身は彼女たちに遠く及ばなかった。
 腕を広げるコウライを無視してナイトにハグしたのは、もちろんなあなあなまま男女としての関係になりたくなかったからだ。だからといって、相手に全てを任せすぎではないのか。
 メグは十七歳。高校も卒業する歳だ。このままでは卒業式のダンスパーティに、コウライをパートナーとして招くこともできない――ということを思い出し、少し焦りつつもあった。わかってよ、という気持ちが半分、私もやらなきゃ、という気持ちも半分。
「いっくぜー! ヤマト!」
 観客席から彼を見る。あれからすっかり調子づいてしまったようで、連戦連勝である。メグの激励で、むしろ恋路は遠ざかってしまったのではないだろうかと思うぐらいに。
「勝者、ライモンシティのコウライ!」
「やったー!」
「よしっ」
 それでも、勝てば真っ先に声を届けたら、コウライはいつも観客席のメグを見つけてくれる。まだ役割はあるのだと思うと、それは素直に嬉しかった。

 そして決勝の日が訪れた。
「ヒナさん! ぜってー勝ってすっきり決めてやるぜ」
「うーわ予想してたけどこの立ち位置めっちゃやりにくいな?」
 その会話に、メグの心臓が跳ねる。
 彼らのやりとりを、カロス人の観客たちは、昇格が決まった他地方出身者同士の試合だからこその心理だと捉えたようだが、どうもメグには別の意味を持って聞こえた。
「二人とも頑張ってよー!」
「メグ!」
「メグちゃん。久しぶり」
 手を振ると、コウライもヒナタも振り返った。プロサッカースタジアムよりは狭い、ポケモンバトルアマチュア二部の試合が行われるこのフィールドでは、意中のトレーナーとのやりとりもあっさり叶ってしまう。
「見てよ、観戦してるだけなのにカロス人の友達が増えちゃった! 消化試合のこのバトル、それでも面白いものにしてくれるだろうって、みんな期待してるんだよ!」
「ライー、ヒナター、手え抜いたら許さんぞー」
「子供送って、足運んだだけの価値はあるって思わせてよね!」
「メグ……みんな」
 カロスの言葉で放たれた応援を、コウライ、ヒナタ、そしてポケモンたちが受け止める。
「ではトレーナーは所定の位置へ」
「はいっ」
「チャリザードU-20ヒヨク大会、決勝は――コウライ対ヒナタ。はじめ!」

 最後に場に残ったのは、ウォーグルのヤマトと、ジャローダのリジーであった。メグにも、隣で見ているゴチルゼルのごっさんにも、馴染み深い仲間たちだ。
「やばいめちゃくちゃ燃える」
「ごちゅ」
 メグはコウライの、ごっさんはヒナタの応援旗を握りしめる。アウェーの地でこんな対戦カードが見られるとは。
「相性ではヤマトが有利だけど、ヒナタとリジーはそんなに簡単に勝たせてはくれないよね」
 かけ声はなしにして、メグはカロス人の仲間たちと、オリジナルのチャントで応援した。

 コウライ ヒナタ その名前
 カロス地方に轟かせ
 どっちが勝てるか決勝戦
 我らが見守る決勝戦

「リジー、とぐろを巻く」
 ヒナタの指示で、ジャローダは優雅な動きで集中力を高め、弱点であるはずのブレイブバードに耐えた。
「そのままリーフストーム!」
 タイプ相性があるとはいえ、草タイプの中でも屈指の高威力技だ。ウォーグルの様子を見る限り、ダメージは確実に入っている。
「とぐろを巻く、攻撃と防御と命中率を上げる技。それでブレイブバードに耐えたとなると、ヤマトの技選択はかなり狭まってくる」
「ブレイブバードの反動もあるし、馬鹿力を出せばさらに攻撃力は下がって決定力に欠ける……と」
 観客も分析を交えながら見守る。まだまだ応援するよ、とメグが声をかけると、また応援のチャントが歌われだした。メグは内心コウライに勝ってほしいと思っていたし、厳しい戦況に目を逸らしたくなることもあったが、チャントを歌っているとはやる気持ちを抑えられる。応援は自分のためでもあるのだ。
「っし、仕方ねえ。ヤマト、フリーフォール! 角度に気をつけろ」
 ウォーグルは、ジャローダの身体に逆に締め付けられないような角度を見計らい、両足でジャローダを掴み、飛んだ。
「もっと高くだ! 高度で威力を補うぞ」
「そんなことしてええの? リジー、ソーラービーム!」
「げ」
 身動きが取れなくとも、光を吸収することならできる。
 かなり高くまで飛んだところで、コウライが降下を指示する。ほぼ同じタイミングで、ジャローダは光を吸収し終え、天――即ちウォーグルに向けてビームを放つ。
 視認が追いつかぬ間に、地上で爆発音がした。コウライにとっても、ヒナタにとっても博打であった。
「どっち……どっちだ!?」
 観客たちが見守る中、砂埃が去った後、立っていたのは――ウォーグルのヤマトだった。
「ジャローダ、戦闘不能。ウォーグルの勝ち、よって、チャリザードU-20ヒヨク大会、優勝者は――ライモンシティのコウライ!」
「いよっしゃー!」
「やったやったー!」
 晴天の下に歓声が響く。メグも思わず、ごっさんと、応援仲間とハイタッチした。
「本当に良い試合でした。この後表彰式に移ります。今後コウライ選手とヒナタ選手は一部昇格となります」
 実況がその事実を告げ、二人とも昇格が決まっていたことを観客たちは思い出す。それぐらい、二者のトレーナーとポケモンたちは勝ちに拘り、最後まで燃えた試合だったのだ。
 観客たちはコウライとヒナタ、そして健闘したポケモンたちを称える。
「敢えての二部ファンだったんだけど、これは一部の試合も観に行かなきゃだめかも。イッシュ行こうかなー」
「またカロスでバトルしてくれよな!」
「ヤマトもリジーも大好きになっちゃった!」

 ○

「ぐぬう」
「懲りないね!」
 表彰式を終え、スタジアムから出てきたコウライは、メグに顔を近づけた。メグは手を立てて防ぐ。
「……あのさあ」
「……なに」
 メグが返すと、コウライはこぶしを握りしめる。
「好きです付き合ってくださいってこの歳で言わなきゃダメ〜!?」
 試合時の凜々しい表情とは一転、冷や汗を浮かべたコウライが言った。
「それ私に訊くの!? 今!?」
 二人のやりとりをごっさんが笑う。結局こういう二人でしかないのだが、互いにイッシュ人なのだ、言外の意味を察するのは不得手。ならば言ってやるしかない。
「そうねー、私は−、なあなあで流すよりかははっきりしてる人がタイプかなあー?」
「……」
 そう言って手をおろすと、コウライに抱きすくめられた。
「だ、だから、そういうとこ……!」
「愛してるぜ、マーガレット」
 耳元で告げられ、思考が真っ白になった。相手の表情は見えない。こんなの反則だ、レッドカードで一発退場だ。しかし、抵抗できる強さだとわかっていて、ふりほどかないメグも確信犯だ。
「……これで満足かよ」
 やや不安そうにハグをほどいたコウライがそう言うものだから、メグにも火がついた。ゴールを決められっぱなしで終わるわけにはいかない。
「コウライ」
 こういう時に可愛い声が出ないものだ。自分でも驚くぐらい低い声で、コウライの顔に自分の顔を寄せた。それからあっさりめに口づける。
 顔を離すと、コウライは唇を押さえて目を逸らした。やってやったのだ、とわかると、メグも自然と口角が上がる。
「卒業式までには帰ってきてよね」


 草菜さん宅コウライくん、ヒナタちゃん、エルトロさんをお借りしました。草菜さんのキャラクターの会話シーンは監修して頂いています。感謝!
 コウライくん×メグでライメグ、これにて史実化。 190116