窓の外の音楽会


 その日、私はいつものように部屋にいた。
 いつもと変わらない一日のはずだったのに、彼――ステラがそうでなくした。

「はいはい、皆集まってー! ステラの青空音楽会、はっじまーるよー!」
 お昼を少し過ぎた頃、公園あたりから甲高い声が聞こえた。
 ライチュウのタルトが起き上がって、眠りを妨げるやつは誰だと、カーテンを開ける。私も思わず覗きこんだ。
 サックスを持った少年と、どうやら彼のポケモンらしいルンパッパが、マリンタウンの子供たちと戯れていた。
 サックスに興味はあるけれど、彼の見た目はチャラいそのもの。私の好みではない。
「皆、何でもいいからリズムとれー! 動くの好きなやつは踊れ! そんで楽しめ!」
 そう言って、彼はサックスを吹き、ルンパッパは踊り出す。
 周りの子供たちも、それに合わせて、滑り台を叩いたり、バック転をしたりする。皆とても輝いて見える。
 私がもう少し幼かったら交ざりたかったかも、と思った時、彼は別の曲を吹き始めた。
 それは、私もよくピアノで弾く曲だった。
「はい! もっともっと、盛り上がって!」
 気がつくと、私はピアノの前にいた。
 なぜか高まる気持ち。わくわくする、この感じ。
 彼がメインで、私が伴奏。
 彼は私の伴奏に気づいたのか、辺りを見回す。でも、子供たちにせがまれて、またサックスを吹き始めた。
 別に気づかれなくてもいい。それが、私だから……。

 バカ騒ぎは十分くらいで終わった。
 彼は子供たちに手をふり、私の屋敷の横を通りかかる。
 私はさっとカーテンを閉めようとしたが、彼がそれを阻止した。
「待てよ! さっきオイラのサックスに合わせてピアノ弾いてくれたのって、お前だよな?」
 至近距離で見ると、彼は私よりいくらか歳上であることがわかった。
「どうしてっ……」
「あー、やっぱり! オイラ耳いいからさ! お前のピアノ良かったぜ、ありがとな!」
 彼は笑顔を見せた。白い歯が輝いている。

 そのまま彼は、道路へと向かう。私は、カーテンを少しだけ開けて、彼の背中を見続けていた。