満たされない


 気持ちのいい日射しの差し込む日。
 こんな日は、カレンもいつも以上に元気がある。
 私がカレンから目を離している間に、カレンは勢いよく二階の窓から飛び出した。
「こら、カレン!」
「ミーィ!」
 やれやれ、心配せずとも、すぐに戻ってくるだろうと思いくつろいでいると、外から聞いたことのある声が聞こえた。
「こら待てっ! てめっ!」
「ミミーィ!」
 声の主は、いつかのサックス吹きだった。
 カレンは、彼のものらしいモンスターボールを持って、お庭の木を上って部屋に帰ってきた。
「返せー! って、この家は……」
 また会えた……特別会いたかったわけじゃないけれど。
「おーい! そのシェイミ、お前のかー?」
「はい」
「あ、そういえば名前」
「リュンヌですわ。こちらはカレン。あなたは……ステラさん、ですね?」
「ああ、ステラ! そっかーリュンヌかー。やっぱオジョーヒンな名前だな」
 彼はよく言えばフレンドリー、悪く言えば馴れ馴れしい人だった。
「ここで大声で話していては、屋敷の者に気づかれますわ。そうなっては、あなたも危ないですわ。ほらカレン、ボールを返しなさい」
「よ、っと」
 私の話を聞かず、彼は木登りを始めた。
 そのまま、大きく開いた窓から私の部屋に入ってくる。
「これで、誰にも気づかれず話せるな」
 彼は私の耳元でそう囁いた。色っぽい男性の声に、不覚にも紅潮してしまった。
「さーて、返してもらおうか」
「ミミィ……」
 カレンは、おずおずと彼にボールを返した。
「はーよかった! おかえり、ルリ!」
「ルリ、というのは?」
「オイラのキルリア! この前捕まえたんだ」
 彼はキルリアのルリをボールから出した。私とカレンに、お嬢様らしいお辞儀をする。
「オイラよりだいっぶ礼儀正しくてさ……」
 そう言って頭をかく彼は何だか可愛くて、思わずくすっと笑ってしまった。

「おっと、そろそろ時間」彼は、部屋の時計を見て言った。
「今日はオイラもここに来れるってわかったし、これでずーっと一緒にいられるな、……なんてな!」
 彼の緑色の瞳が、私を見つめる。こうして見ると、彼はチャラチャラしてるけど、顔は整っている。うっとりしてしまいそうで、でもそんな自分を見せたくなくて、私は目をそらしてしまった。
「冗談がきついです、わ……」
「ちぇーっ。リュンヌこわーい。んじゃ、お邪魔しましたー」
 彼はルリをボールに戻し、渋々木に移った。
 彼が着地した時、彼は私のほうを見た。何か言わなくちゃ。
「あのっ」
 彼はウインクして、駆け出した。

 満たされすぎて、退屈な屋敷での生活。ずっとそうだったのに。
 なら、この満たされなさは何……?