不足分


 はじめは、ただ可愛い子だな、と思った。そんじょそこらにいる、可愛い子のひとり。
 なのに、二度目に会った時は、近くで話したからか、ちょっと気になってきた。
 でも、好きになってはいけないことくらい、オイラには分かっていた。

「やほー」
 オイラは木からリュンヌに話しかけた。
「あ、ステラさん……なぜ木から移ってこないんですか?」
「や、いいのかって。こんな身なりだし」
「私は気にしませんけど」 そう言われて、オイラは窓から進入した。ついでに、わざとらしくリュンヌを抱きしめた。
「手が滑っちゃったー。リュンヌちっちぇー」
「やめてください」
 リュンヌは丁重に、オイラの腕をほどく。オイラはおとなしくそれに従った。
「あ、そうだ、これは言っとかねぇと。オイラ、もうすぐここのバイト終わるから、別の地方に移る」
「えっ……行き先はどちらですか?」
 リュンヌはちょっと不安そうだ。オイラのこと、気にしてくれてんのかな。
「んー、まだ決まってない」
「そうですか……今までも、色々な土地を廻ってきたのですか?」
「え、ああ、そうだよ」
「それでは……何かそれに関する話をしてくださいませんか?」
「いいよ。うん、あれがいいな」
 オイラは、“謎の大陸”での出来事を話した。
「わたくしも、知らない土地での話でした……その、お仲間二人とは今でも交流を?」
「今はさっぱり。どこかで繋がってる感じはするけど」
「素敵ですね、そういうの」
「んじゃ、どっか他の地方に行っても、オイラのこと憶えててくれる?」
 リュンヌは否定も肯定もせず、オイラを見つめた。
「あと一回くらいは来れそうなんだけど、来てもいいか?」
「……どうぞ」
 そう応えてくれたリュンヌを、オイラは強く抱きしめた。ほぼ、衝動で。
「あ、あのっ……」
 リュンヌは隙間から顔を出して、言った。
「オイラ、リュンヌのこと……」
 そこまで言いかけて、オイラはリュンヌを離した。
 好きになっては、いけない。
 今度会ったら、オイラはリュンヌを忘れる。あんなこと訊いといて、卑怯なのはわかってる。
「ごめん。長く居すぎた」
 日が沈んでいた。
 こんなところで、独り言を言ったところで、聞いているのは月だけだろう。それなら。

「今のオイラじゃ、あいつを護れねぇよ……」