ハートのキューブ


※学園で六年生(高三)の時

 もともと進学予定がなかったり、もう入試を終えてしまったクラスメイトが、その日のことについて話しているのは何度も聞いたから、勉強に追われる僕とてその日付を忘れることはなかった。
 だけど、同じく入試に向け勉強しているエデルにそれを期待するのは悪い気がした。女の子同士でもやりとりするそれから視線を引き剥がし、過去問にまた目を向ける。
 きりの良いところで一息ついたときだった。
「シオン、これ」
 エデルの声がした。顔を上げると、エデルが、市販の四角形をしたチョコを持っていた。
「……チロルチョコ?」
「はい。少量のチョコは脳にもいいそうですし」
 彼女の作るお菓子の味を知っていたら、物足りないな、とうっかり思ってしまうけれど。
「一緒に第一志望、勝ち取りましょうね」
「もちろん。……ありがとう」
 笑顔とチョコが最高のビタミン。
 僕がチョコを受け取ると、じゃあ私ももう少し頑張りますね、と言って、エデルが去った。
 まだ書き込まれていない過去問の右ページが、はやく解いてほしいと待っているかのように見えた。


130214