挨拶代わり


 久しぶりにヤマブキまで出たアンジェは、繁華街のなかに知っている顔を見つけ、そちらを振り向いた。
 アンジェよりもはっきりした金髪に、カドミウムレッドの鋭い瞳。アンジェが勝手にトレードマークだと思っているミニハットもしっかりかぶっている。
 間違いない、と思い、アンジェは彼に話しかけた。
「あら、あなたがちまたで噂のナツキくんね」
「むしろ噂になっているのはこの町でだ」
 トレーナー同士であれば、知り合っていない者でもすぐに話しかけられる。その相手が有名であればなおさらだ。
「あら、そう。しょうがないのよねー、私浪人中だから、あんまり情報が入ることもなくて」
「浪人……?」
「ええ、二浪目よ、まったく」
 アンジェはわざとらしくため息をついた。アンジェが志望している、タマムシ大学の医学部に入ろうと思えば、二浪などよくあることなのだ。
「で、今日はひっさしぶりにオフにしたわけ。でもラッキーだわ、有名なトレーナーに会えるなんて。私は3の島のアンジェ。よかったら、バトルしてくれない?」
「えー、あんた勉学に生きてんだろ? ポケモンバトルは……」
「有名人にバトルをしかける程度にはやってるわよ」
「……わかった、いいだろう」
 アンジェは、そこから一番近い駅前広場まで、ナツキを誘導した。
 色とりどりの花が植えられた広場につくと、アンジェは小さくなったモンスターボールを持ち、ちょんとスイッチを押す。煌々とした眼差しをナツキに向け、いかにも臨戦態勢といった様子だ。
 ナツキのことを知るトレーナーたちも、バトルが始まるぞ、とぼちぼち集まる。
「……プラプラ!」
 ナツキのボールから出てきたのは、ラプラスだった。アンジェははじめ変な掛け声だと思ったものがラプラスのニックネームとわかり、あからさまに笑いをこらえる。
「プ、プラプラって……」
「なんだよ、俺のラプラスだよ。いい名前だろ?」
「ええ、私そういうの大好きよー。じゃあ私も。いっておいで!」
 アンジェが投げたボールからも、同じシルエットが浮かび上がる。そして二匹のラプラスが対峙した。
「ラプラス同士のバトル……」
 ナツキはアンジェのラプラスをじっくり見る。よく育てられているとすぐにわかった。
 相手の態度に満足したようで、アンジェはにこりと笑った。


めあさん宅ナツキくんお借りしました。
アンジェは「アンジェリカ・ドレイデン」と名乗れば何人か知ってるーレベルの名家出身ですがトレーナーの前ではアンジェとしか名乗りません。

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