恋はコスモパワーのごとく


 なんで、なんで、とメグは思いめぐらせる。ただの思い違いだと思った。しかし、サヤカのアンリを見る目は、どう見ても恋い慕う者のそれだったのだ。
 メグは、同性に思いを寄せるという価値観を持ち合わせてはいない。確かに、仲の良い女友達は、年齢を問わず多い。しかし、彼女たちが誰かと付き合う時、隣にいる人の肩書はいつも「彼氏」だった。
 強いトレーナーの戦術を観察しているうちに、いつの間にか人に対しての洞察力もついてしまった。この勘が外れていますように、と祈ってしまう。無論、そこにサヤカの感情はない。
 枕に顔を突っ伏して、自己嫌悪の混じったなんともいえぬ感情にうなだれていると、背後でふぁん、とごっさんが鳴いた。
「ごっさん……」
「ふぁん」
 そうだ、とメグは思い立った。
 ゴチルゼルも勘が鋭い。ごっさんがどうというものではなく、エスパータイプのゴチルゼルに共通する能力だ。
「ねえごっさん、サヤカさんってアンリくんのこと好きなのかなぁ? あ、好きも好きだけど、私も二人のこと好きだけど! そういう意味じゃなくて」
 わかってる、と言うようにごっさんはメグの前に右手を突き出した。そして首を縦に振る。頭飾りが派手に揺れた。
「やっぱりそうだよね!」
 メグが言う。疑いが確信に変わり、汗が止まらない。
「で、でも、そんなのってあるの? 男の人が男の人を好きになるなんて」
 この問いにも、ごっさんは頷いた。そして腕を広げ、メグを抱きしめる。
 そこでごっさんが見せたのは、無限に広がる宇宙だった。
「えっ、これは」
「ふぁん」
 ごっさんはさらに念じ、青い星に近づいた。メグたちが暮らす、美しい星だ。
「ごっさん……」
 言葉がなくとも、伝わるものがあった。
星の数ほどに、人間とポケモンが暮らしている中、個人の出会い、別れの経験なんてわずかでしかない。そんな世界で、同じ性別の人を好きになることもあるのではないか。
「ごっさん、わかった」
 言うと、ごっさんはサイコパワーを沈めた。ピンクのチェック柄のシーツが、少しだけまぶしく見える。
「ありがとう。ごっさんは大人だね、私が知らなかっただけなんだね。まだちょっとわからないなって気持ちもあるけど……今度サヤカさんに会ったら、途中で逃げちゃったこと謝らないと」
 メグの言葉に、ごっさんはまたふぁんと鳴き、にこりと笑った。
「でも、大体の人は私みたいに考えてると思う。そんな恋愛ありえないって。サヤカさん大丈夫かなぁ」
 そう問えば、ごっさんの表情も険しくなる。ゴチルゼルには、トレーナーの未来を知る能力もある。トレーナーとは普通主人のことを指すのだが、ポケウッドスターとして強いオーラを放ち、そんな彼を客席で、また目の前で見たごっさんには、少しだけ見えたものがあったのだ。
「大変だろうね、これから。でも、大変だからこそ……燃えるって恋もある!」
 さっきの悩みはどこへやら、メグは元気にガッツポーズをする。そんな主人を見て、ごっさんは苦笑するしかなかった。


 めあさん作のサヤカくんとアンリくん、お名前だけお借りしました。

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