伊達男今昔


 思い返せば、昔の私は彼女が苦手だった。
 とどまるところを知らない虫ポケモン好きで、無理矢理ヒウメの森に連れられ。
 私もタネボーも、会う度に彼女を恐れたものだった。
「チャービル」
 それなのに、今となっては。
「聞いてる?」
「え、ああ」
「だーからねー、もうアメタマがすごくって! 氷、地面両タイプの技を“いまひとつ”で流せるのがアメタマだけだって 聞いて、頑張って育てたんだけどねー、バトルタワーでもなかなかいいところまでいったの!」
「それはすごい」
「ただね、ニアちゃんに負けちゃったんだー。まさかのだったよ」
「残念だったね。まぁ、次は勝てるさ!」
 彼女が私の前で明るくなることなんて、今じゃ虫ポケモンの話をしている時くらいだ。
 まぁ、昔からそういう話ばかりだったが……何かが違う。
「やっぱり違う」
 私の心の内を見透かしたように彼女が言った。
「何がだい?」
「前は、“コノハナが怖がるからやめてくれないか?”とか言ってたのに」
「ああ……まぁ、怖がるだろうけど、君が喋りたいのなら、と」
「もっと正直でもいいのに」
「え」
「伊達男!」
 何でそうなるんだ。ユッカはたまにものすごく面倒くさい。
 そのまま走り去ろうとする彼女の腕を、私は思わずつかむ。
「何ですか」
 彼女の口調が、いつもの、“私以外の誰か”に話す時のものになった。
「伊達男っていうのやめてくれませんか」
 私も同じような口調で返す。
「じゃぁ伊達男をやめてください」
「仕事です。アナウンサーや司会業でメディア露出する上でしょうがないんですよ」
 これは本音だった。
「私の前でくらいやめてくれたって……」
 そう言って彼女は、ネットボールに手を掛ける。
「アメモース!」
 ボールから放たれる光に、私は思わず目がくらんだ。
 彼女を握る手の力が弱まったところで、彼女は腕をふりほどく。
「何て使い方するんですか……」
「うるさいです!」
 これは完全に血がのぼっている。何かを話したところで無駄だろう。
「伊達男であるうちは……また好きになんかなってやんないっ」
 これが彼女の捨て台詞だった。

「あーあ。告白されて、同時にフラれたってことかー」
 数年前の私はつくづく馬鹿だったと思う。あの時にこうならなければ、今頃はどうなっていたのかと。
「コーココ?」
 コノハナが首を傾げた。
「フラれたんだよ! これは紛れもない事実なの!」
 私は、おふざけでコノハナの鼻をつかもうとする。コノハナはさっと後ずさりした。
「ココッ!」
「油断も隙もない奴め!」
 それから私は笑ったが、コノハナはそんな私を哀れむような表情をしていた。