伝説の影と探し物


 ふわり、と大きな影が見え、チョウノは狭い通りの西へと走った。
 あの厳かな雰囲気、大きさを感じさせない軽い足取り、きっとエンテイだと思ったのだ。だが、チョウノの足よりもエンテイのほうが断然速い。結局、はっきりと姿を捉えぬまま、影は森へと消えてしまった。
「あっちゃー、今日もか……」
 手の甲でおでこの汗を拭い、チョウノの全身からへなへなと力が抜ける。こんな状態、チョウノの近所に住む者からしたら日常茶飯事であったが、その日は少し違うことがあった。
「あーあ、今日もライコウに会えなかった」
「ライコウ?」
 隣で同じように疲労していた少女に、チョウノは話しかけた。ふわふわした桃色の髪にレースのついたスカートをはいた、まさにチョウノとは似ても似つかぬ少女がチョウノのほうを向く。
「あら、あなたもライコウを追ってきたんじゃないの? ここで疲れてるってことは、ライコウの影、見たんでしょ?」
「いや……うちが見たんは、エンテイの影やけど」
「え、エンテイ? なぁにそのポケモン、ってかポケモンだよね? あの影はどう見てもライコウだったよ」
「いーや、うちはエンテイに見えたのー!」
 チョウノがそう言ったところで、互いに自分の主張を通すことよりも、呼吸の乱れをなんとかすることを優先し、二人は沈黙した。
 碁盤の目のように道路が通ったエンジュシティで、こんな狭い通りを西のはずれまで走ったのはチョウノにとって初めてであった。通りの名前自体は知っているため、引き返すことは容易だ。だが、こんな町だと、自分の知らないものがたくさん隠れている。
「で、結局、エンテイって、なんなの」
 先に言ったのは桃髪の少女だった。少し時間を置いて落ち着けば、チョウノにも冷静に話そうという気が出てくる。
「エンジュシティの伝説のポケモン……多分炎タイプで、優しい目をしてる……って、はじめて見た時思った。で、ライコウ? やっけ」
「うん、ライコウもエンジュシティの伝説のポケモンって聞いてるよ。でも電気タイプで、優しいというより力強そうだったから、そのエンテイとは全然違うポケモンだよね」
「せやな」
 二人は首をかしげた。同じ影で違うポケモンが見えたのなら、その二匹はよく似ているということになる。二匹にはなにか関係があるのだろうか。
「なあなあ」
 次に切り出したのはチョウノであった。この状況を楽しんでいる、ということは桃髪の少女にもわかった。
「エンジュいろいろ回ってみーひん? 道歩いてたら、お寺だの歴史的事件の現場だのあるし、どっかにライコウとエンテイの関係がわかるもんがあるかもしれへん」
 チョウノはあたりを見渡す。ちょうど向こうの交差点にも、なにかの跡として細長い石が場所を示しているのがわかる。エンジュとはこういう町なのだ。
「えっ、それ、いいかも!」
「決まりやなー。うちはチョウノ、こっから南東に行ったとこに住んどる。よろしく」
「私はジュリ! よろしくね」


 黄泉さんのジュリちゃんお借りしました。  

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