ふわふわピュアホワイト


 ワタッコの形をした肉まんがあるらしい。

 通称ワタまん。味はそこそこ、形は概ね良い。そのような噂を聞いて、「マッドワタキスト」を自負するマーニーが行かないわけがあろうか、いやそんなことは決してありえない。
 サクハ地方でベンチャーを成功させ、またここでも一匹のワタッコをハネッコから育てたマーニーは、社員に臨時休暇をとらせ、自身もワタまんの聖地――カントー地方ハナダシティへと向かうことにした。

 カントー地方というと、地元ジョウトの東隣だ。そこまで地理を知らないわけではない。しかし、ハナダに入ってから、その町の構造の複雑さを知った。段差が多く、しかも道の整備があまりできていないせいで、一度段差を飛び下りればなかなか元の場所に戻れないのだ。
「どこだワタまん!」
 マーニーは思わず叫ぶ。すると、すぐ近くにいた少女がマーニーに言った。
「ワタまんというと、セカイ君が作っているものですね?」
「そう、それ! っていうか、うちあほやな、こうやって誰かに訊いといたらよかったんや」
「ふふ。セカイ君なら、北の橋に出かけていきましたよ」
「ほんま? ありがとうな、今度なんかおごるわ!」
 今度、なんてあるのか、と思いつつも、少女は笑顔で見送った。

 ゴールデンボールブリッジ、などという名前をつけたのはどこのどいつなのだろうか、と思いつつ橋の先を見るが、その名のとおり黄金の道が続いていた。
 いくで、とボールを放り投げる。閃光が橋に反射して輝きを増し、サクハで育てたワタッコがふわりと宙返りした。走り出せば、隣をすっとワタッコが抜いていく。呑気そうなポケモンだが、見た目に反して素早いものだ。
 そんな調子だから、自分と同じ種族のポケモンを見つけるのも早かった。
「ワタ!」
「いたーワタッコォー!」
 マーニーは、今度はワタッコに負けないぐらい速く走る。それに気づき、ワタッコのトレーナーらしき人が振り向いた。
 彼を見て、マーニーは目を真ん丸くする。自分よりいくらか年下で、身長はそこそこあるものの童顔だ。この男の子がワタまんを作るのだろうか。
「あ、あのさっ、セカイ……君?」
「はい、こっちはワタッコ」
「ワータッ」
 二匹のワタッコは、お互いの綿をぽんぽんと合わせ挨拶した。
「あのあのあの、ワタまんを作ってるっていう……」
「はい、これです」
  セカイはすっと弁当箱を出した。ワタまんは形が全く崩れていない。普通のワタッコより幾分か薄い青色に、丁寧につけられた綿の肉まん三つが食欲をそそる。
「うっわ予想以上に可愛い」
 触れぬまま、マーニーはそれを凝視する。それ見たさにワタッコが綿を押し付けてくるものだから、くすぐったくて場所を譲る。
「今日はこれだけしか持ってないんだけど。そうだな……じゃあバトルしようよ」
 セカイはマーニー、それから日焼けしたサクハのワタッコを見て言った。
「えっバトルもできるん? じゃあやろやろー! 終わったらワタまん売って」
「うん、もちろん!」


 愛吉さん宅セカイくんお借りしました。お誕生日おめでワタッコモフモフゥ!!

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