ヒャッコクシティ攻防戦


 ほらよ、と言ってレンゴクから渡されたのは、漆黒を込めた硬い石だ。
「“闇の石”?」
「ああ、必要になる時が来たら使ってくれ」
 ザリストは石をまじまじと眺める。闇の世界から見えたものは、それを見つめる自分の緑色の目だった。
 ザリストの手持ちでこれが使えるポケモンといえば、ニダンギルしかいない。しかし、ザリストは今のニダンギルの力に満足していたので、進化させてはいなかった。
「俺はいっぱい持ってるから、そこを気にすることはない」
「……わかりました」

 ○

 テルロがヒャッコクシティに着いた時、そこには既に見慣れた影がいた。
「サルビオ!」
「テール・ロゼ・ブアン。ここに何の用だ」
 サルビオは冷たく言い放ち、テルロを民家の影まで引っ張る。
「いやテルロでいいって」
「そちらの方が楽だから、そうさせていただく」
「はぁ……で、用っつーか、ここ僕のホームタウンだし……」
「……そういえば、そうだったな」
 サルビオは頷く。彼は以前、テルロの経歴はほとんど知っている、と言っていたから、生まれ育った地のことも当然のように知っているのだろう。
「すごいな、あのオーパーツというものは」
「あの日時計のこと、だよな?」
「ああ。あれを動かせば」
 サルビオが言いかけたその時だった。
「誰だ!」
 その声が聞こえた時、サルビオは何のためらいもなく民家の影から顔を出した。出しちゃうんだ、と思いつつも、テルロも同じようにした。
 日時計の前に立っていたのは、青髪の少年――ザリストだった。
「フレア団とやらの野望をとくと見ていようと思ってな」
 サルビオが棘のある言葉を飛ばす。フレア団、という団体名はテルロでも聞いたことがあったが、良い噂は聞かない。
「フレア団に関する黒い噂の消去工作も限界だろう?」
「なにぃ」
「おっと、ここからは私たちが相手よ!」
 ふっとその場に躍り出たのは、今回ザリストと行動を共にしているフレア団の幹部二人だった。
「よかったー、出番があって」
「本来ない方がいいんだけどね……でもいいわ、暇つぶしになって!」
 幹部二人、すなわちジンジャーとデイジーは、各々マグカルゴとカエンジシを繰り出した。
「なあサルビオ、どういうことだ?」
「あのザリストとかいう男を調べてわかった。あいつは日時計を動かして、カロスに眠る「最終兵器」を探している」
「サ、サイシュウヘイキ!?」
 テルロは素っ頓狂な声をあげたが、それをかき消すようにポケモンたちが攻めてくる。二人とも急いでポケモンを出した。
「プテラ、頼む」
「ニンフィア、よくわかんないけどいくぞ!」
 ニンフィアは炎タイプポケモンにはやや不利だが、それでもこの町で、それもこの場所で戦うのならば、彼しかいないと思ったのだ。
「“ストーンエッジ”」
 いきなりリスキーな技を指示したのはサルビオだった。カエンジシは華麗に避け、ニンフィアを狙う。
「“ハイパーボイス”よ!」
 言われて、すぐにテルロはニンフィアに“ストーンエッジ”でできた岩陰に隠れるよう指示した。リボンを器用に動かし、耳を塞ぐ。プテラは上空に飛び、技のダメージを軽減した。
「こっちは“スピードスター”だ!」
岩陰から飛び出したニンフィアは、超速の光を放つ。“ストーンエッジ”を食らって動きが鈍っていたマグカルゴが、それでもスピードスターに反応する。
「“噴煙”で勢いを止めて!」
 マグカルゴが出した煙により、スピードスターの軌道が屈折する。必中技と言われるだけあって、全てがポケモンにぶつからなかったわけではなかったが、威力が小さすぎる。
「これじゃ消耗戦だ、どうすれば……」
 テルロが大きなため息をついて言う。
「……しょうがない、奥の手で行く。降りてこい、プテラ!」
「奥の手?」
 プテラはサルビオの声に反応し、サルビオのすぐ目の前で地につく。サルビオは左腕のそでをまくった。出てきたリングに、右手で虹色の宝珠をはめる。
「キーストーン装着。……メガシンカ!」
 サルビオが言うと、“キーストーン”と呼ばれた石の力にプテラの持つ宝珠が反応し、全身が光った。
「し、進化!? プテラって進化しないはずじゃ」
「メガシンカならできる。俺のホームタウンで連綿と受け継がれ、最近ようやくバトル研究の表舞台に出つつある……」
 サルビオが言っている間にプテラは姿を変える。身体のあちこちに黒い石の装飾を施した、“メガプテラ”だ。
「ミアレシティに生まれるのも一つの才能、と言うが」
 幹部二人が呆然としてメガプテラを見上げる中、テルロだけはその言葉をしっかり聞いていた。自分がずっと信じてきたことだ。
「……シャラシティで育つことも、一つの才能だ」


比呂さん宅レンゴクさん、めあさん宅ジンジャーさん、黄泉さん宅デイジーさんお借りしました。

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