妖精の遠征


 今年の秋から、バトルの世界はまた変わる。
 ルール変更に適応していくのも強者の務めだ。それは当然、サクハ地方のファクトリーヘッド、カグロにも求められている。
 さて、どうしたもんか、と一息つくと、ソフィアがパソコンの画面を覗き込んできた。 「フェアリータイプ?」
 ふわふわとした赤毛が頬をくすぐる。
「ああ。今まで、カロスって地方でだけローカルルールにされてた“フェアリータイプ”が、全国ルールでの採用が決まった、って」
「へえ、強いの?」
「今のところ、ドラゴンタイプの技を無効化できるって情報がある」
「すごいじゃん!」
 ソフィアは緑の目をぱっと輝かせた。
「そうそう、お前のラルもフェアリータイプ追加だ」
「えっ」
 ソフィアは首をかしげた。カロス地方固有種のポケモンだけでなく、全国的に住処を持つ数匹のポケモンにも、フェアリータイプが追加、もしくは同タイプに分類が変更されるらしい。
「あとはグランブルとか。エデルが持ってるだろ? ガーディアン・ルーもまた強くなるな」
 エデルは現在、タマムシ大学で卒業論文を書いている。そのため、バトルパレスはエデルが不在の日が多いが、彼女のグランブル、ルーを筆頭とするポケモンたちはバトルパレスの挑戦者たちを退け続けている。そこでルーを称え、挑戦者は“ガーディアン・ルー”と呼ぶのだ。
 また強くなる、と言っても、どうせエデルがこれを知れば「これでガブリアスに勝てるようになるかも」とかなんとか言うに違いない、と想像するのは、カグロには容易かった。 「フェアリー、か……ラル、どう思う?」
 ソフィアのサーナイト、ラルもまた頬に手を当てて首をかしげる。そんなラルを見て、エルレイドのルトがラルの肩に手を置く。
「ルトはエスパー・格闘、でラルがエスパーだけ。フェアリータイプ、あってもいいんじゃないか」
「そ、そうかな! カグロ、どうせカロス地方のポケモン捕まえに行こうとか考えてるんでしょ? じゃあ観光もしようよ」
 ソフィアは、勝手に検索フォームを開き、「カロス地方 観光」と打ち込む。
「あ、こら」
「いいじゃん? うわぁ、なんか石がいっぱいあるとこが画像検索に出てるよ。ミステリーのかほり!」
 ソフィアは夢中になってしまい、カグロは部屋を出た。

 雨季のあいだ、バトルフロンティアは休業中だ。もし開けていても、毎日スコールが降るのだから来る人もわずかだろう。
 この夏、カグロは、オブリビア地方のソピアナ島に帰る時以外は、ずっとサクハ地方にいた。この地でブレーンになって数年経ったが、まだ行けていない場所も多いのだ。
「おい、カグロ、これ」
 ただ、フロンティアに留まるトレーナーも珍しい。ブレーンで今残っているのは、カグロと、今カグロを呼んだステラのみだった。
「置手紙。ロダンさんの」
「オーナーの?」
 カグロは手紙を取り上げ、読んだ。文字を読むのはカグロのほうがまだまだ早い。
「んー、なんて?」
 ソフィアも興味を持ったのか、部屋から出てきた。カグロは手紙を読み上げる。
「カロス地方の三ツ星レストランめぐりに行って、自身もレシピを増やします。いきなりで悪いけど、今ブレーン二人しかいないわけだし、管理よろしくね☆ ロダン」
 読み上げてカグロは、はぁ、とため息をついた。この人もステラと同じぐらい無鉄砲だ。それなのに、料理が得意だからなのか知らないが、意外と計画的で、ミスが少ないからカグロも何も言えない。
「カロス行きは次シーズン持越しってことか……」
 ええー、とソフィアが不満そうな声をあげた。
「まあいい、それまでにフェアリータイプのポケモンをどう育てるか、逆にフェアリー対策はどうするか考えておくさ」
 カグロは手紙を丁寧に封筒にしまった。フェアリータイプってなんだよ、とステラが言うから、カグロはソフィアも交えて、ラウンジで話すことにした。


翡翠さん宅ソフィアちゃんお借りしました。ガブリアスに関してはお察しください。

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