ソラとゾラ


 終わったらローズ広場で、と約束していたザリストとサルビオは、その通りの場所で落ち合った。
「ザリスト……よかった」
「まあ大分無理のある作戦だったけどな。ボルケニオンが協力してくれてよかった。それに、他の人たちも」
 ボルケニオンの協力を得たザリストは、サルビオと、それから道端で見かけたオランデに協力を乞うた。
 そしてオランデの社交スキルと人づてによって、さらにテルロ、メグの協力を得ることに成功したのだ。
 ボルケニオンとザリストは十三番道路側の門に立ち、そこから時計回りに、それぞれの門にメグ、サルビオ、テルロ、オランデが立った。
 そしてザリストがスチームバーストを指示したとき、五人と五人のポケモンが“浄化の霧”をミアレ中に均等に蔓延させるためにあらゆる手を尽くして動いたのだ。
 その結果がこれだ。ボルケニオンの手によってミアレは邪気から解放された。
「結局、写真はこれだけか」
 サルビオは、白い霧にまみれて、言われてやっと判別できるようなボルケニオンの写真を見た。ザリストもカメラの画面を覗きこむ。
「お前、ボルケニオン撮ってたのかよ」
「たりめーだろ。でも」
 サルビオはそこで言葉を濁す。
「でも?」
「どこにも売らないほうがいいのかもな」
 ミアレの住民たちが、この事件の真相についてはっきりと知ることはないだろう。しかし、スチームバーストの霧を知るものたちによって、カロス南西部の平野のように、ボルケニオンは新たな伝説となるのだろう。
 本人の素知らぬところで。
「テルロ、ちゃんとゾラのこと返してくれたかなぁ……立場のせいで連絡もできねえ」
 そう呟くサルビオの肩を、ザリストが優しく撫でた。

 ○

 ザリストとサルビオが知ることはなかったが、オランデがメグを誘ったとき、俺たちも協力する、と、カクタ、それから彼ら双子の母親でもあるウィエが名乗り出た。
 カクタは「俺たちも助けてもらったから次は自分たちが誰かの力になりたい」、そしてウィエは「故郷カロスを守りたい」と言ったのだ。
 結果として、ウィエとカクタは、メグと共に門前で任務を果たした。
「よかった。私だけじゃ絶対できないところでした!」
「いやいや。頑張ったのはポケモンたちだし」
 カクタが言ったとき、トリミアンがひときわ高い声でバウと吠えた。朝焼けに包まれた東の空に、テルロ、それからハルンの姿を確認した。
「うおおートリミアン! おかえりー!」
 テルロが言うと、トリミアンはテルロの胸に飛び込む。その後ニンフィアとも身体をすりすりして再会の喜びを確認しあった。そしてテルロの背後には、ハルンと、それから。
「ソラ!」
「ソラ……!」
 カクタとウィエが駆け寄ってきて、トゲチックはにっこり笑う。トゲチックによりカクタの背に降ろされたソラは、楽しい夢でも見ているのか、幸せそうに眠っている。
「君が……バレエ団の君が、守ってくれたのか」
「いやぁ、僕というよりかは……ごにょごにょ」
 サルビオ、なにか事情がありそうだしなぁ、と思い言葉を濁すテルロの横で、ハルンは両手を上げた。
 そして、す、と両手を下ろしたとき、霧の向こうでなんとか顔を判別できるような場所に、サルビオとザリストをテレポートさせた。
 一瞬何が起きたのかわからなかったサルビオは、それでもウィエの顔を見てぎょっとした。幼き日の母の顔なんて覚えているはずもないザリストは反応がおくれるが、そのうねった赤毛と自分たちにそっくりなコーストカロス北西部特有の青緑色の目を見て悟る。
 それにウィエも気がつき、我ここに在らずといった様子で言う。
「あなたたちひょっとして、ザリストと……」
「サルビオだよ」
 トリミアン、ウィエ、カクタ、それからゾラを見て、サルビオは優しく微笑んだ。そして二人は、霧の向こうへと去っていった。

 ○

 あのね、すごいんだよ。進化したトゲチックがお姫様にキスをして、王子様のことを思い出させてあげたの!
 と、ソラは夢での出来事を嬉々として話す。どうせ夢だろう、と思うこともなく、カクタとウィエは話に耳を傾けていた。
「しんか、すごかったなぁ。またしんかするのかなぁ!?」
「一緒にいたら進化するさ」
「そっか! またしんかしようね、トゲチック」
「ちょげ」
 トゲチック以外は知るよしもないが、それはハルンがソラに与えたひとつの現実だった。トゲピーからトゲチックへはトレーナーによく懐いた状態で進化する。そんな進化条件であるのに、トレーナーであるソラに記憶がひとつもないのは少し可哀想だと思ったのだ。
 いつか彼女は気づく時がくるのかもしれない。それで戸惑うこともあれ、「お礼」として受け取ってほしい。それがハルンの思いだった。
 ソラとトゲチックは草原を駆け回る。そんな幸せそのものの様子を見て、ウィエはカクタに話しかけた。
「ねえ、カクタ」
「どうした、ウィエ」
「私と結婚してください」
 唐突だった。まるで出会って間もないころのように、カクタは飲んでいたコーヒーをぶっと吹き出し、目をそらして頬を紅潮させる。
「わかったでしょう、あの二人の子供たちが何者であるのか。私は赦されるべきではないと思ってた。だけど彼らは……ソラを守ってくれた。そしてカクタは、私を守ってくれた」
「ウィエ」
 珍しく熱を込めて語られ、カクタはウィエのほうに向き直る。
「迷うこともある。我儘だって、また言うこともあるでしょう。それでも、私はあなたと支え合っていきたい。一生を添い遂げられる女になりたい。……駄目かしら?」
 少し遠慮がちな目をしていたが、ウィエの言葉はどこまでも力強かった。
「……まさかウィエに決められるなんてね」
 ウィエの頬に褐色の手を添え、キスをひとつ。
 少し離れたところで、うひょー、と叫ぶ子供の声がした。

 アンサンブル・プレイングIII 曼荼羅の西遊

 Fin.


 第六世代。久しぶりにポケモン漬けとなった最高の世代でした。
 この世代で書きたいことは全て書いたので七世代まではのんびりします。
 無印からここまで、お付き合いいただいた方に多大なる感謝を。

 160705