「王」の居場所
二階にも同じような空間が広がっていた。だが、文字はそう簡単に読めるものではなかった。
二階の壁に刻まれた文は、二文字分前にずらさなければ読むことができなかったのだ。
文章の処理に辟易しつつ、カグロは読み解いていった。
生きるということ、それは全てに感謝することなり。
ゆえに野蛮であってはならぬ。
食べるということ、それはあらゆる命を頂くことなり。
ゆえに粗末にしてはならぬ。
戦いは何も生まない。生まれるとすれば、それは無限の悲しみなり。
物事には正義と悪だけではなく、その間が存在することを忘れぬよう。
全ては平等に尊きものなり。
王に理解を示すのならば、ここで光を放て。
光、という単語を見て、カグロはすぐさま、ウルガモスを思い浮かべた。
イッシュが火山灰に覆われた時、ウルガモスの輝きが太陽のかわりになったという。
カグロはゆっくりとボールをかざし、そのポケモンを出した。
「ウルガモス、?フラッシュ?」
「ウール!」
ウルガモスが輝けば、今来た道もはっきり見えるほどであった。そして、さっきのように、壁が動き、その先には階段があった。
「よくやった。戻れ」
カグロがウルガモスをボールに戻すと、ネオラントはふっと勢いをつけ、階段をのぼっていった。
同じく、道を進みながら、素数で曲がる。
文は三文字分前にずらさなければ読めなかったが、文章自体はそう長いものではなかった。
王は全ての希望、そして全ての理想なり。
王は愛する心と愛する力、生きとし生けるものと対話する力を持つ。
王は未来を読み、民を大津波から守った。
王に理解を示すのならば、王と同じ力を示せ。
カグロははっとした。ここに書かれている「王」と同じ力を示す。単にポケモンの技だけでなく、侵入者の器量、ポケモンとの絆を試そうとでもいうのだろうか。
「未来なんて読めねぇけど」
カグロはふと下を見る。ネオラントと目が合うと、彼女は力強くうなずいた。
「あの技だな」
カグロは、一旦ネオラントから降りる。遠い地で体得した、秘められた技の使い時だと思ったのだ。
「?オアシスヒール?」
「ネーオーン!」
ネオラントの作り出す水の流れを読み、カグロはその場に立ち続けた。
いにしえの輝きが壁と呼応し、ふっと消え、また輝く。
流れがおさまった時、一人と一匹は、全てを忘れて壁を凝視していた。
「……」
「……」
ガタ、と壁が動く。いびつな動きをして開いた壁の向こうに、光へつながる階段が顔を出した。
「ネオラント、頼む」
「ネオ」
カグロはネオラントによじ登る。上になにがあるのか、高まる鼓動を必死で抑えた。