毒使い、再び


 飛行機での長旅を終え、トウカイ地方のホクトシティの地に足をつけた。
 ただでさえ、エコノミークラスに乗ってくたくただというのに、この町もまた、お堅い印象。こんなところに住んだら三日も持たないわ、とライラックは思った。
 ここで働く友人に会いに来たのだが、待ち合わせ時間まではまだある。そこで、ライラックは近くにあった案内図を見た。
 “ホクトシティジム ジムリーダー・ユウ 現役毒舌中学生”
 ――そういえば、彼はこの町のジムリーダーか。
 ライラックは、以前ユウとバトルをしたことがあったのだ。
 何もかもを斜めから見たがりな年頃の彼を、ポケモンバトルで叩きのめした。そして、ジムリーダーとしてやっていきたいなら、もっと徹底した強さを身につけなさい、と言い捨てた。
 サクハ地方にも、まだまだ威厳も実力も伴わないジムリーダーはいる。だが、シャクナにはクロモジがいるし、ラナンにはホウセンがいる。自分も、師弟関係とまではいかないけれど、そういう後輩ジムリーダーを持ちたかったのかもしれない。

「ユウさん、挑戦者ですよ」
「あら、私は挑戦者ではないわ」
 ジムトレーナーの言葉を制したライラックは、そのままジムに入った。
「なかなかきれいなところじゃない。……で、ユウはいないの?」
「……お引取りくださいまし」
 ポケモン像の後ろから、彼はのそりと出てきた。ライラックはそちらを向く。
「ユウ、久しぶりね。元気にしてるかしら?」
「元気も何も……って来るなー!」
 ジムトレーナーたちが、いかにも意外だといった表情でその二人を見つめる。だが、そのうちのロゼリアを連れた女性だけは、くすりと笑った。
「あんたねぇ……ポケモン修行は怠ってないわよね?」
「ません! 怠ってません! あれから挑戦者には一度も負けてませんし!」
「それはよかったわ」
 ユウは、また何か言われるのではなかろうか、と思いこわばっていたが、案外何も言われず、胸をなでおろした。
「あのー、ユウさん?」
 ユウは、ジムトレーナーの一人に話しかけられ、ひとつ咳払いをした。
「こちらはライラックさん。サクハ地方のジムリーダー。それも毒タイプの」
「へぇ、サクハって名前しか聞いたことないけど、すごいです!」
「んで、さっきの会話からすると、ユウ君はライラックさんに負けた、と」
「触れないでくれよ!」
 ユウが不機嫌そうな表情になる中、ジムトレーナーたちは楽しげだった。そんな時、ユウの背後からアリアドスが出てきた。
「アリアドスじゃない! 私よ、ライラックよ、覚えてるかしら」
「……モーゥ」
「なんだか前よりたくましくなったみたいね。そんなあなたに、はい! ポケラッカ」
 ライラックは、ケースから出した赤いポケラッカをアリアドスに差し出した。
 見知らぬおかしに、ジムトレーナーは興味深々だ。
「修行を怠ってない、っていうのは本当みたいね」
「はい。ところでそれは……」
「ポケラッカっていうのはサクハ地方のお菓子よ。あんたのアリアドス、意地っ張りな性格よね? それにあわせて、一番美味しく食べてくれそうなのを選んだから」
 それから、ライラックはケースを漁って、桃色をしたポケラッカを見つけた。
「人間も食べられるわよ! あなたには甘いのがいいかしら?」
「……そうやって人間にもポケモンにもアメとムチを」
「なかなか酷い言い方ねぇ。もう一度やっつけてあげてもいいんだけど?」
「ひぃっ!」
「冗談よ、冗談。今日は、これから会う友達とポケモンバトルもするんだから、ポケモンたちを疲れさせたくないし。それじゃ、今日はこの辺で。あんたも、ジムトレーナーの皆さんも、ジムを守る者として、修行を怠らないこと!」
 そう言って、ライラックはホクトジムを出た。

「かっこいいオバチャンだったねー」
「彼女は、一度会ってバトルしただけで、アリアドスの性格が意地っ張りだとわかったのだろうか? すごいな」
「それに今日はユウさんの可愛いところ見れましたし!」
「静かにしろ!」
 ユウの一言で、ジムがしんと静まる。
「えっと……やっぱりこれからすることって……」
「修行だよ」

(女の人って、わっかんねー!)


110627
水方おりえさん宅、トウカイ地方のユウ君お借りしました。