SSS集


・BL有

 花の影が伸びてきれいなの、と言われ外へ出たが、クオンの言うようにまるで花畑が二倍に広がったようだった。早朝、見ているのはミツハニーだけ。この前はごめん、と謝られ、まだ気にしてたんだ、と笑う。どうやら通過儀礼の試験は百点を超えられてしまったらしい。
(「早朝の高架下」「ゆるす」「試験」でゆるふわ)

 花言葉知ってる、と、ハルジオンを見たシオンが言った。唐突だなぁと思いつつ、私が知っているのは「追想の愛」だ、と答える。へえ、と返して近づく顔、触れる吐息。ときめきなんてもうないけれど、ゆったり想えばいいじゃない、と目を閉じれば、唇に熱。
(「早朝の遊歩道」「振られる」「吐息」でしおゆで)

 なんでそんな急いでるの、とスタッフに言われることがある。んなもん恋敵に追いつき追い越すためだろうが、と返したいのをぐっと堪えて、赤い橋で故郷を思う。ただ俺だけが、あのときから置いてけぼりにされている。未だ子供、未だスーツは似合わない。
(「早朝の橋」「振られる」「スーツ」でダイジュ)

 団員として立派になる――というよりは、プリエはポケモンとの関係が以前より親密になっている気がする。そんなことで悪がつとまるのか、と注意しようにも、その笑顔を見てしまうと躊躇われた。強くなる方法に絆を結ぶというものも確かにある、そう考えると少し羨ましい。
(ザリストから見た蒼紫さん宅プリエちゃん、フレア団時代)

 サブウェイにいる彼女しか知らなかったから、外で初めて見たマワリは……なんというか。思わず名前を読んで振り返った瞬間に「もっとオシャレすれば」。その時の表情を見て、すぐに私は言ったことを後悔する。
(吟悠雪さん宅マワリちゃんとメグ)

 だめですぅー、と言うロゼッタの手には次回作のプロット。ちょっと粗筋教えてほしいだけだって、と言っても、どうせ言いふらすでしょう、で遮断。じゃあいいよ、と返しながらも、久しぶりにプロットが通った彼女をこっそり祝福した。
(吟悠雪さん宅ロゼッタちゃんとテルロ)

 明るみから遠退くように逃げたのに、外は雨。待とうか、というネモロの声がただただミスマッチで、これぐらいなら必要ない、とひとり歩く。ぬかるみに足をとられ、彼からは離れたのに、なぜか感じる逃げ場のなさ。
(「夕方の劇場」「わかれる」「雨」でネモツワ)

 守るべきものができたとか、これも運命のいたずらか、とか。受け売りの言葉はいくらでも並べられる、ただ娘の笑顔で離散する。彼女が死ぬまで世界は続いてほしい、この思いも孫ができたら延長するのだろう。
(「運命という罠」でカクタとソラ)

 勉強漬けであろうが、バトルから遠ざかっていようが、どうやらこいつには関係ないようで。ただ、こいつの羽ばたきを肉眼で確かめられなくなったのは少し寂しい。あと数ターンもすれば、どうせ誰にも見えなくなるから、と自分を励ましつつ、私はテッカニンに技を指示した。
(「誰にも渡さない」でヒヨ)

 トバリの音を拾ってきたから曲名は帳だね、と言ったネモロのパッドからは、人の足音、ピアノの音、それから細かく刻んだポケモンの鳴き声が聞こえる。楽しそうに身体を揺らすのを見て、こいつにはこの町がこんなふうに聞こえているのだ、と何度目かの認識をする。
(ツワルダーから見たネモロ)

 こんな時だけ仲良しなんてひどくない、と二匹の手持ちを見ながら言う。ポケモンからすれば滑稽なのだろう、しかしやめられるわけもない。君たちもカロス男子だろう、マドンナひとり射止めてみてはどうだね? と訊けばまた喧嘩になることは知っている。
(軟派なテルロとニンドリ)

 朝日を浴びても、あの先輩のようなオーラはない。そんな光は不似合いな彼女が輝くのは舞台の上だけ。スポットライトが彼女だけを照らすようになる時、それを想像するだけで僕はめまいがするのだ。
(「朝のベランダ」「すれ違う」「めまい」でテルロとアリサ)

 あまり不安にさせないでほしい、と、夕方のラジオを思い出しながら立ち尽くす。数分後ここに来る彼はきっと微笑んでくれる。涙さえどうにかすれば、あとは闇が隠してくれるだろう。なんだかんだ私も見たいのだ、彼の信じる、新しい世界を。
(「深夜の歩道橋」「泣きじゃくる」「ラジオ」でコトミオ)

 昼はリーグにいるからこんな時間にしかまとめて読むことは叶わない。そこに、何読んでるの、とボリジは本を取り上げて、それがレシピだと気づくと急に黙る。おいしいと言われたから、またあの笑顔を見たいから、と何となくいつものノリで言えないのは、時間帯のせいだろう。
(「深夜の庭」「奪う」「本」でボリミナ)

 このままでは終わらないという野心と、彼を貴ぶ気持ちがせめぎあう。ゴウ、なんかあったのか、と話す口調は近所のやつらと同じなのに、生きざまはなにも敵わないのだろうか。じゃあバトルして、結局俺に出来るのはこれだけだ。
(ゴウ→コトヒラ、信愛)

 スコアを見て感心していたガマゲロゲが、いざ振り始めると大爆笑。ひでえ声、と言ってやれば落ち込んだのか、笑うのをやめた。そしてまた練習だ。何でも言い合える友という存在は貴重だなぁと思いながら。
(リードとガマゲロゲ)

 暴きたい、今すぐに。ひょんな理由で知り合い、運命をともにするようになったこいつを。壁に追い詰めて見つめれば、焦るなよ、と返ってくるだけ。ああ、逃げられないのはこちらのほう。
(ネモツワネモ? 基本はネモツワ)

 さすがに彼のゾロアークは見分けがつく。だからといって、彼の姿に化けてエスコートするのは、もう少しその姿が私に及ぼす心のぐらつきを考えてからにしてほしい。こんなことをされたと言えば、彼は怒るのか笑うのか。どうせ一番得するのは、隣ですかした笑いを見せるゾロアークだけれど。
(ミオとゾロアーク+コトヒラ)

 大型店に潰されればいいわ、と物騒なことを言った彼女はしっかり上目使いで、こういう時も夫婦のなんとやらを心得ているというか。へえ、と笑えば、二人の時間が減るから、と目をそらす彼女を、たまにはと思って自分から抱き締めてやった。
(タムキャリ)


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