Wonder Girl


 ライモン郊外に住む少女メグと彼女のポケモンたちは、朝の涼しいうちに外に出て遊びだす。イッシュ地方最大の娯楽都市であるライモンが賑わいだすのは、もう少し後だ。
「それじゃまっさん、いっくよー!」
 メグは、サッカーボールを思いっきり蹴る。まっさんと呼ばれたシママはそれに反応したが、そのボールはシママのはるか頭上を越えていった。
「シマァ!」
「ひゃー、ごめーん!」
 シママはボールの飛んだ方に走る。だが、ボールは植木の前で浮いたままぴたりと止まった。
「シマ?」
「ねえ、これ、君たちのー?」
 木から声が聞こえた。メグは腕で日光を遮り、声の主を見る。
 銀のショートヘアーに、大自然に混じりあう緑の瞳をぱっちりさせた少女であった。ぱっと見では年齢はメグと変わらなそうだ。膝の上に、茶色くふわふわしたうさぎのポケモンを乗せている。
「そう! ありがとう」
 少女とうさぎポケモンは軽やかに木から降りる。どうやら同じく木の上にいたらしい茶髪の少年も元気に降りて、その二人に少女に似た銀髪の少年が向かってきた。
 少女は、メグをじっと見る。一部がはねた短い金髪に、海のように青い瞳。サーモンピンクの帽子には、モンスターボールとゼブライカの瞳がデザイン化された缶バッジをつけていた。スポーティな服装もよく似合っている。
「さすがライモン……さっそくこんなコオルなギアルに会えるなんてっ!」
「コオルなギアル……? あたし、ギアル持ってないよ……?」
「それを言うなら、クールガール、でしょ」
 彼女とよく似た色の髪を伸ばした少年が言った。
「ああ、なるほど」
 メグは呆れつつも納得した。
「サッカーしてたの?」
「サッカー……っていうか、ただのパスだけどね」
「へぇ! 私たち、ちょうどサッカーの試合見に行こうかって言ってたところなんだけど、スタジアムどこかわかる? この町、ドームみたいなのがいっぱいでわかんなくて」
 その言葉に、メグは瞳を輝かせる。メグはサッカー観戦が大好きで、また地元のサッカーチームであるライモンジーブラーズの熱いサポーターだったのだ。
「ああ、それなら案内するよ。今日のチケット、まだ取れるだろうし! あたしはマーガレット、長いからメグでいいよ。こっちのイケメンはシママのまっさん!」
「え、メグでいいの? じゃあ間をとってマーガリンって呼ぶ!」
「どういう取り方なのそれ……」
 メグの身体からへなへな力が抜けた。
「私はマサラタウンのマイカ! こっちはミミロルのミミちゃん」
「みゅうっ!」
「僕はヒョウ。マイカとは兄妹」
「そして俺、ハジメ! 言っとくけど俺はイッシュ最強のトレーナーになるっ! 今のうちにサインもらっといた方がエエで」
「マイカにヒョウにハジメね。みんなよろしく! あと、サインならジーブラーズ選手のやつのほうが欲しいかな」
 メグの返しに、マイカは豪快に笑った。

 四人分のチケットを買って、並んで座る。
「今日はライモンジーブラーズ対セッカホワイトベアズか……ここは勝ってほしいところ」
「君は、その“ライモンジーブラーズ”ってチームを応援してるの?」
「あったりまえじゃん地元のチームだよ! ロゴマークがゼブライカだから、あたしもシママ捕まえて育てはじめたりね」 「私たちも応援するぞー!」
 マイカは大空に両手を突き上げる。
「ありがとう。試合だよごっさん!」
 メグは座ったままモンスターボールのスイッチを押す。出てきたのはゴチムだった。
「大きいポケモンなら別にチケットがいるけど、小さなポケモンなら膝の上に乗せて一緒に応援できるよ。ごっさんもジーブラーズ大好きなんだー」
「そっか、じゃあミミちゃんも一緒に応援しようね」
「みゅみゅう!」
 オーロラビジョンの画面が切り替わる。試合スタートまでもうすぐだ。

 試合は0-0が続いていたが、後半でついにジーブラーズにチャンスが回った。
「これ決めなまずいここは決めとかな!」
「頑張れうおおお、おおっ!」
 FWの選手が放ったミドルシュートが、ゴールネットにきれいに突き刺さった。
「ゴ……」
「ゴアーーーーールッ!」
 会場がわっと盛り上がる。
「ってなにそのゴアールって!」
 メグは聞きなれない言葉を盛大に発したマイカに言う。
「だってあそこに書いてあるよ」
 マイカはオーロラビジョンに出た、GOALの立体文字を指した。
「ゴールだよゴール! あーでもやったー、この一点守ろう!」

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