コノママ
「はぁああああ……!」
声をあげて、集中力を高める。
「はっ!」
集中力が頂点に達した(ような気がする)ところで、手を前へ突き出す。
見た目二十歳後半くらいの男性、オモトーと共にいたラルトスは、彼に対する期待の視線をそらした。
ホウソノシティ郊外で、彼らは何日もこんなことばかりしている。
「やっぱダメか」
「ラローン……」
ラルトスはオモトーのそばによって、靴をなでて慰めた。
「はは、ありがとうな、ラルトス。……はぁ」
彼はへたりと座り込んだ。開発されながらも、地べたはほとんど天然芝のホウソノシティは素晴らしいところだ。
「憧れるよなー。エスパータイプがエキスパートのトレーナーっていったらさ、ボールを合図ひとつで運んできたり、自分の髪型をいじったり。あんなんしてみてー」
そこまで言って、しばらくストレッチをしたのち、彼はまた立ち上がった。
「もうちょっと付き合ってな」
「ラルー!」
それから数ヶ月が経ち、いろんなサイキッカーと出会い、話を聞き、練習に取り入れたが、オモトーにはいっこうに超能力が使えるようになる兆しはあらわれなかった。
それでも頑張ろうとしていたが、ある夏の日、ついに、彼の何かが途切れた。
「あーー! もう無理! 無理無理絶対無理!」
太陽は、彼らを焦がすごとく照りつける。ラルトスは、ついにこの時がきたか、と、少し残念そうな表情になった。
「知ってた? いつか俺がこうなること。お前はエスパーだもんな」
ラルトスにはどう応えることもできない。
「……って、お前にこんなこと言っちゃ駄目だな、ごめんな。帰ろう」
オモトーはしゃがんで、手を差し伸べた。ラルトスはその手を取ろうとして、ぎりぎりのところで手をひっこめた。
「?」
「ラール!」
そう言って、ラルトスは後ずさりした。
「まだいときたいのか? それじゃ、遅くなる前に迎えに来るから」
オモトーは独りで帰途についた。ラルトスは木の影に隠れ、いつものメニューをこなした。
「おーい、ラルトスー。太陽沈むぞ」
太陽が地平線へと近づき、大地は黄金色に輝いた。
「ラル……」
木の影から、ラルトスがよれよれと出てきた。全身傷だらけである。
「お前っ! もしかして、野生のポケモンと戦ったのか?」
ラルトスは、静かにうなずいた。
「で、勝てたのか?」
ラルトスは、それにもうなずいた。
「……ゆっくり休んでくれ」
オモトーは、ラルトスを抱きかかえた。その時、ラルトスの小さな身体が銀色の光に包まれた。
「えっ……?」
みるみるうちに、腕の中のポケモンは重みを増す。そして、銀色の光は消え去り、太陽は沈んだ。
「リーア!」
「進化した! キルリアに……お前も成長してたんだな」
キルリアは優しく微笑んで、彼の腕を握った。
『このままで、だいじょーぶ』
「えっ? 今……」
『だいじょーぶ』
オモトーにとって、これほどまでにポケモンの言葉がはっきりと伝わったのはこの時だけであった。
翌朝、またキルリアと話したくなったのだが、手を握っても、具体的な言葉は聞こえない。
まぐれだったのか、それとも、何か大いなる存在が自分の気持ちをくんでくれたのか。
いずれにせよ、オモトーは超能力を手に入れることをきっぱりやめ、代わりに何か打ち込めるものがないか探した。
あたりを見渡すと、ホームタウンのホウソノシティ、そして、キルリアがいた。
こうして彼は数ヶ月後、ホウソノシティのジムリーダーに就任したのである。