僕の、新しい家族


 イッシュの他の橋とは一線を画す、重厚感を持ったホドモエの跳ね橋に、少女シオンは目が釘付けになった。
「なんだかレトロな感じもしますね……でもこれ、船が通るときは上がるんですよね。見てみたいです」
「ラーグ……」
 彼女の傍らにいたラグラージも同じく見とれる。
 なんとなく厳かな空気になる中、そんな雰囲気をぶち壊すような声と足音が聞こえた。
「ふははーっ! ここを通りたくば、このダイジュさまに勝っていけー!」
 橋の向こうからやってきたのは、ダイジュと名乗った金髪の少年だった。シオンよりは年下で、顔だけ見れば少女とも取れるが、さっきの口調からして少年だろう。
「まあ、さっきお会いしたチャールズさんもおかしな方でしたが……ホドモエの人って陽気なんですねぇ。わかりました、受けて立ちましょう! 私はシオン、エンジュシティのシオンです!」
「おっしゃいくぜードンカラス! コテンパンにやっつける」
「ではこちらは……べとちゃん!」
 シオンが出したのは、ベトベトンのべとちゃんだった。
「は……? そっちのラグラージじゃねえのかよ!」
「ぬまぞうちゃんはさっきバトルしましたから! 今度はべとちゃんがバトルしたいそうなので」
「ベェト!」
 ベトベトンのその動きに、ダイジュはおぞましさを感じた。こんなポケモンを見たのは初めてだったのだ。
「地面技無効化だと思ったのに……まあいいやドンカラス、“ふいうち”だ!」
「効きませんよ、“どくどく”」
 ドンカラスは不意打ちの体制に入ったが、むしろ不意打ちをくらったのはドンカラスのほうだった。強烈な毒を浴びるが、まだ体力は大丈夫だ。
「どくどくっつったら、じわじわ効く技だろ? まだいけるぜ! “つばさで撃つ”」
「小さくなって避けてください!」
「ベトッ!」
 ベトベトンは、“ちいさくなる”でドンカラスの翼をなんとか避けた。その間にも、ドンカラスの“どくどく”のダメージは大きくなっていく。
「くそっ……でも!」
 右翼での攻撃を避けられたドンカラスは、すぐさま左翼に力を入れた。
「おれさまのドンカラスは……両利きだぜ!」
 ドンカラスの素早い動きには、いくら小さくなったベトベトンでも対応できない。
「ガァー!」
「ベェト……」
「べとちゃん! ……この攻撃力」
 その一撃だけでも、ベトベトンはなかなか辛かったらしい。それを見たダイジュは調子に乗る。
「はーはっは! まだいくぞドンカラス、もう一度……」
 ドンカラスはまたしても素早く翼を振る、が。
「“まもる”」
 ドンカラスの右翼は、ベトベトンのヘドロの中に吸い込まれる。
「……っはぁ?」
「痛みを感じない部分のヘドロを、ドンカラスの右翼が来るだろう位置に集める……べとちゃん流の防御です」
 ドンカラスはぞっとして、右翼を抜く。その時のベトベトンのヘドロの動きを見て、ダイジュは思わず、
「……キモッ」
 とつぶやいた。
「……なんですって?」
 独り言のつもりが、その言葉はシオンにも届いていたらしい。
「聞き捨てなりませんね、その言葉ぁ……べとちゃん、いえ、全てのベトベトンちゃんに謝りなさーいっ!」
「正直に言っただけだ、やなこった!」
「べとちゃん、わかってますね、“ダストシュート”です!」
「ベトー!」
「うわぁ!」
 ゴミの塊を顔面で受けたドンカラスは、数メートル飛ばされて橋の壁にぶち当たり、倒れた。
「どくどくのダメージもありますし……もう戦闘不能でしょう。べとちゃん、お疲れ様です」
「そんな」
 青ざめるダイジュの横を、シオンは黙って通り過ぎていった。

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