僕の、新しい家族


「ダイジュくーん!」
 先日、ダイジュと呼ばれた少年のドンカラスを、ベトベトンで打ち負かした少女――シオンが、笑顔で跳ね橋に向かってきた。
「あら? 今日はバトルしてないんですね」
「テメーに負けたからだよ……修行だ修行!」
 ダイジュは嫌そうに答える。
「で? なんの用だよ」
「この前は勢いにまかせてひどいこと言っちゃってごめんなさい。それで今日はお礼がしたいなって……」
「いや、ひどいこと言ったっつっても、おれの発言が元凶じゃんか」
「いいんです、だから、一緒にお散歩しましょう!」
「は?」
「くろみつちゃん、二人乗せられますか?」
「バーット!」
 くろみつと呼ばれたクロバットは、元気に答えた。
「それじゃ出発進行―!」
「待て待て待てよー!」
 ダイジュはつかまれた腕を振りほどこうとするが、男女差はあれど年齢差がある。結局振りほどけず力を抜いた。
「きっと楽しいです」
 シオンが笑う。その笑顔は、捻くれ者のダイジュから見ても、可愛い、と思えるものだった。

 着いた場所をぐるり見て、ダイジュは愕然とした。彼女――シオンは、可愛い女の子である以前に、かなり変わった女の子だった。
「なぁ……ここで散歩?」
「ええ、ヒウンの下水道」
目の前の現実は、こんな可愛い女の子と散歩できるならまあいいかな、と一瞬でも思った自分に平手打ちをくらわせた。
「最近見つけて、はまっちゃったんです。それはそれは可愛い毒ポケモンちゃんがいっぱいで」
「いやいやいやいやおれこういうの無理ですから! マジありえん!」
「大丈夫、旅のお供がついていますから」
 シオンは軽く傷の入ったモンスターボールを一つ取り出し、優雅に投げてみせる。
ホッホウ、とないて飛び出したポケモンは、ダイジュの目にはまさにゴミのように映った。
「キュートなヤブクロンちゃんです」
「……」
 ダイジュは絶句した。異臭を放つヤブクロンは、暗い場所でも映える金髪の少年を、怯えながら見上げている。
「ヤブクロンちゃん、この子はダイジュくん。この前仲良くなったんですよ」
「おれさまは仲良くなった記憶はねーけどなぁー」
「昨日の敵は今日の友、です。あら? ドンカラスちゃんは早速ヤブクロンちゃんに歩み寄り……やっぱりこういうのはポケモンのほうが早いですね」
 ドンカラスはヤブクロンに挨拶する。ヤブクロンは、ドンカラスに対してなら普通でいられるようで、怯えてはいなかった。
「ドンカラスちゃんとヤブクロンちゃん、相性ぴったりですね」
「ゴミあさり的な意味でか……?」
 ダイジュは右眉をひくつかせる。
「違いますよ、バトルのパートナーとして、です。悪、飛行タイプのドンカラスなら、ヤブクロンの弱点である地面、エスパー両方をカバーできますから」
「まあ、そうだけどさ……相性、うーん」
 ダイジュは頭を抱える。今から、可愛い女の子と、このゴミのようなポケモンと、下水道を、散歩……一つ目以外は、どうも楽しむ要素に欠ける。
 それでも自分は、バトルで負けた。一度負けたから一度の罰ゲームだ、と割り切り、シオンに、じゃあさっさと出発しよう、と言った。

120916