うねる光がきみに届くとき


「きゃーダイジュくーーーん!」
 その声を聞いた瞬間、引き返したい衝動に駆られた。なんで彼女はこうなんだ。
 しかし、彼女は逃げる暇も与えず、ダイジュに抱き着く。その時、ちょっとだけ身長追いつけたかな、とダイジュはひそかに思った。
「元気にしてましたか?」
「ま、まあ」
 ダイジュの隣で、お出迎えに付き合っていたラッセンとバンジローの目が点になる。
「なんていうか……女のひと、やな」
「そうだな。なんかこう、ニア的な」
「そうそう」
 シオンの後ろで、ベトベトンのべとちゃんもゆっくりこちらへ向かってくる。シオンは、ダイジュの隣にいたダストダスにも抱き着いた。
「まあこんなに大きくなって! あのヤブクロンちゃんよね、覚えてる?」
「ダス!」
「それはよかっただす! ねえダイジュくん、ドンカラスちゃんはいないの?」
「え、まあいるけど。あと新入りと……」
「お願い、会わせて!」
 言われて、ダイジュはダストダスを横目で見る。彼女のハグは少々痛いぐらいだが、ダストダスはそれをくらっても元気そうで、むしろ昔の友に会えたことを嬉しがっているようだった。
 現に、ダイジュだって、内心は嬉しい。
「っしょーがねーな。出てこい、ドンカラス、ライチュウ!」
 両手で思いっきりボールを投げる。からっと晴れたサクハの空に、二匹のポケモンが飛び出し、ダイジュとダストダスの隣に並んだ。一人と三匹は元気にポーズをとる。
「我ら、ドンカラス軍団! ……なーんて」
「ダイジュ軍団ではなくドンカラス軍団なのがミソです」
 すかさず、ダイジュより年上のラッセンが補足した。
「いや、だってドンカラスのほうが俺より人生経験あるし!」
「そうですね、ドンカラスちゃんまた逞しくなったんじゃないですか? リーダーに相応しいです。ねえ、べとちゃん」
「ベェト!」
 そう言って、べとちゃんがダイジュとドンカラスに抱き着く。
「うぎぎべとちゃん苦しい俺苦しいダイジュ君苦しいよ」
「それにまさか、新しいお仲間さんがライチュウちゃんだったなんて! 私、ライチュウはあまり見たことがなくって。ほっぺ触ってみてもいいですか? 感電しませんか?」
「ラ、ライチュウ。シオンを傷つけないように頼む」
「ライ!」
 ライチュウが元気に返事して、シオンはさっそく、ぷに、と頬をつついた。
「か、可愛いー! ぷにぷにですよライチュウちゃん、ぷにぷにです」
「だーっライチュウなんだから当然だろ!」
 その後、シオンが満足するまで頬を触られたライチュウは、シオンに会う前の嬉しさ半分面倒くささ半分といったダイジュの気持ちがよくわかるようになった。
 表面ほのぼのとした空気につつまれる中、シオンを案内したのはラッセンだった。
「それでシオンさん、荷物はロッカーに。ブレーンのカグロからも、知り合いだと聞いています。カグロはバトルファクトリーにいますが」
「ありがとう、じゃあお荷物はそうします。……ここまで来て勿体ないとは思いますが、今回はカグロさんとは会わないでおこうかなと」
「えっ、でも、確かイッシュ地方で一緒に戦って、いいトレーナーだったとカグロさんが」
 そう言ったのはバンジローだ。バトルに関してはストイックで完璧主義なカグロが認めた相手だ、当然お互い会いたいと願っているはずだと思っていたのだ。
「私だって会いたいですよ。でも、彼とは約束してしまったんです。男同士ではありませんが、トレーナー同士の約束ですから」
「そうですか。それはそれで興味深いですが」
 ラッセンはにやりと笑った。夜にでもカグロに訊いてみようと思ったのだ。
「ならシオン、俺んとこ来ねぇ?」しばらく黙っていたダイジュが言った。「俺が担当してるのはバトルホールウェイっていう……まあその名の通り廊下をひたすら進んでく施設なんだけど。シオンなら楽しめると思う。あっでも長旅で疲れてたらあれだけどさ」
 ダイジュの提案には理由があった。ダイジュたちと挨拶をした時は元気だったが、彼女は意外と寂しがりだ。そんな彼女が好きなのは、下水道だったり、地下だったり、とにかく暗い場所。それならば、もともと照明がきつくないバトルホールウェイならば彼女も落ち着けると思ったのだ。
「いえ、私たちまだまだ元気ですよ! ではまずホールウェイから挑戦してみます」
「ベットー!」

 シオンのホールウェイ挑戦が決まり、ラッセンとバンジローは持ち場に戻った。ダイジュにとっては担当施設であるため、たとえマルチバトルでもシオンと同行することはできない。仕方なく、ダイジュはロビーで待っていた。
 フロンティアエリート、と言えばそれなりの肩書だが、トレーナーたちが目指すのはあくまでブレーンだ。ロビーにでも座っていればちやほやされるが、エリートはそうでもない。ましてやこの施設のブレーン、ホールウェイライターのノーラは、暗い場所で出会ってこそ意味があるとすら言われている。彼女は、サクハリーグで四天王をしていた頃から、暗めのフィールドで挑戦者を待ち受けてきた。
 きっちり七分後、シオンが戻ってきた。もちろん全勝。一周目だからこんなものだ。
「おかえり」
「ただいま戻りました。はぁ、バトルホールウェイの薄暗さ、落ち着きますね」
 どんぴしゃだ。
 シオンはやはり暗い場所が好きだ。その淑女的な見た目に反して、薄暗くて少し湿った場所が好きだというから困る。もっとも、そんな彼女を好きになったのは自分だが。
「……これに電車の音があればもっとよかったのですが」
 言って、シオンはさっき出てきたばかりの受付を見る。
「バトルホールウェイにそんなサービスはねえよ」
「うふふ、冗談ですよ」


 お題お借りしました:そうだよ。
 六花さん宅シオンちゃんお借りしました。

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