スポーツ・トリニティ黎明期


「メグー! はやくはやく、あとちょっとで消えそうなのだ!」
「でもまだ少し足りなくて!」
 ママンボウ二匹は、火事の起きた建物に向かって必死で水技を繰り出していた。しかし、火もしぶとい。
「……それじゃ、この子真ん中に入れてあげて」
 二人はわかった、と言って、ママンボウも間をあけた。レベルの高いママンボウを両端に置いて、レベルの低いママンボウの威力やコントロール力を補う作戦だ。
「三匹合体で……いくよ」
「”水びたし”!」
 出会ったばかりの三人だが、そこは息ぴったりだった。野生であるはずのママンボウも、自分たちの力を最大限まで発揮する。
 かくして、火はきれいに消えた。
「よ、よかった……」
「キクノ! 大丈夫か」
「あーっアキヨシ!」
 メグとツユクサと共にいた少女は、キクノと呼んだ少年アキヨシを見て、安堵の表情を見せた。
「応援を呼んでくれたんだな、ありがとう。俺もなんとかなった」
 メグたちより数歳年上のアキヨシは、火事に気付いた時、ともにいた従妹のキクノに応援を呼ぶよう頼み、自身は火事に巻き込まれた人とポケモンを救出していたのだ。
「君たちが助けてくれたのか……サンキューな」
「マッカ!」
「……って、おいちゃーん!」
 アキヨシに助けられた一人と一匹を見て、ツユクサは素っ頓狂な声をあげた。
「え、なに、知り合い?」
「メグ、この人なのだ、ゴッデス・オブ・グラッドの店主! カイドーのおいちゃん!」
 その言葉を聞いて、次はメグが素っ頓狂な声をあげる番だった。
「そ、そんな! 私は夕方のライモンジーブラーズの試合を見るために……」
 メグがそう言うと、バーの店主カイドーはほう、と一つ唸った。
「ライモンジーブラーズか、ホドモエにはサッカーチームがないからそんなに知らんが……しかし助けられたんだ、今日は野外でパブリック・ビューイングにしよう!」
「えっいいんですか!?」
「いいってことよ! さーまずはモニター用意、ちょちょいのちょーいっと」
 カイドーは早速作業を始める。共にいたダルマッカもすぐ手伝い始めた。
「あ、あの、大丈夫なんですか、その、身体とか」
「メシを作れば回復する!」
 少女三人が不安そうな顔をすれば、まあ屈強な人で、助けるときに俺がやったのなんてドアが変形する前に開けたぐらいだし、とアキヨシが言った。そのアキヨシも、焼け跡を片付け始めていた。
「よーし、じゃあ試合までは片付けだー」
 メグが言うと、ツユクサとキクノの二人が、おー、と言った。

 その後、パブリックビューイングとして、テレビの前には、メグ、ツユクサ、キクノ、アキヨシ、それからママンボウを含むポケモンたちと、バーが火事と聞いて気になって来た常連客たちが集まった。
「今日は子供たち四人とポケモンたちに助けられたからな、お前らまだ飲むんじゃねーぞ」
「わーったって。今日はライモンジーブラーズか」
 試合が始まると、それまでジーブラーズのことなど何も知らなかったツユクサとキクノも、試合に夢中になった。
「ナイスディフェンスー!」
「今の縦パスは見事」
「いける、いける、あっ、いったゴーール!」
 試合が終わり、ライモンジーブラーズの勝利がわかったとき、少女たちの距離はさらに縮まっていた。

「あー楽しかった!」
「ツユ、キクノ、それからアキヨシさん、一緒に応援してくれてありがとう。おかげでめちゃくちゃいい日になったよ! 今度ダルマッカウォリアーズのことも教えてね」
「お安い御用なのだ」
 ツユクサが言うと、キクノはなになに、と言う。試合を見て、彼女もすっかりスポーツの魅力にとりつかれてしまったようだった。
「それじゃまた!」
「うん、バイバイ。また会えるかな」
「とりあえずスポーツバーが元通りになったらまた集まるのだ」
 ツユクサの言葉に、カイドーは苦笑した。

 帰路が跳ね橋方面のメグは、途中まで三匹のママンボウと一緒に歩いていた。
 ここでお別れだね、と言って、ママンボウたちを見送ろうとすると、あのレベルの低いママンボウだけ、海に跳び込まない。どうしたの、とメグが言うと、ママンボウは悲しそうな表情を見せた。
「あーら弱ったな……ねえママンボウさんたち、どう思う?」
 メグは、はじめに海に入った二匹のママンボウを見て言った。ママンボウは二匹とも頷く。
「……だって。よかったらあなた、私と一緒に来ない?」
 メグが言うと、ママンボウは目をぱあっと輝かせる。
「それじゃ名前は……ぼっさん、がいいね! ごっさん、それから今日はお家でお留守番のまっさんとも、仲良くしてね、ぼっさん」
「ママー!」
 ジーブラーズの勝利と、新たな仲間。その後のメグにとって、跳ね橋渡りが苦ではなくなっていた。


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