油断ならない、いつもの彼女


 わー、と、両手を広げて駆ける子供たちの中に、なぜかキャリーも混じっていた。こういうところは昔から変わらない。
 サザナミタウンとセイガイハシティの間にマリンチューブなる海底通路が出来て、はや一年と少し。サザナミが観光客で溢れかえっているのは夏の間だけだから、マリンチューブは空いていた――というかほぼ貸切状態だった。
「みてみてー! プルリルがオスメスでいるわよ! いい夫婦ーひゅーひゅー」
「ひゅーひゅー!」
 キャリーが言うと、ベスが真似をした。
「俺たちは地べたを走って、あいつらは海を泳ぐってことはさぁ」
 ガラスに目を近づけて、ビルが言う。ティムはその隣についた。
「お互い良い条件でかけっこできるってことだよな」
「かけっこか。それいいな!」
 お先、とティムが走ると、それを見たバスラオが続く。負けないぞー、と勢いをつけるティムを見て、先にやられてしまった、とビルはため息をつく。
「しょうがない、じゃあこっちはホエルオー探しだ。ベスもやる?」
「やるー!」
 ホエルオーはめったに見られない、と入口でガイドに言われてから、ビルは絶対見つけてやる、という心意気だった。かくして、子供たちとタム、キャリーの二人は随分と離れてしまった。
「……ったく」
「元気がいいのはいいことよ」
「そうじゃなくて」
 久しぶりのお出かけだ、わざわざ子供たちが――というか、勘の強いビルが二人置いていく理由を、タムはしっかり分かっていた。
 だから、その恩恵は享受しておく。
「……えっ」
「たまにはこういう場所でしとくのもいいと思って?」
 短いキスをされて、キャリーはぽっと顔を赤らめる。と思ったら、タムから目線を外して、にやりと笑った。
「……?」
「後ろ」
 表情を崩したまま、キャリーは指差した。タムが振り返ると、そこにはいつからいたのか、キャリーのギャラドスがいた。にへ、と、親に似た笑い方をする。
「なんであそこにギャラドスが……?」
「ギャラドスは中から見るより外で泳ぐほうが楽しいかなって!」
 言うと、キャリーは勢いよく抱き着いた。もう俺たち結婚何年目だよ、と思いつつ、タムもまんざらでない。すっかり小さくなった子供たちに追いつくために、また歩き出した。


69さん宅キャリーさんお借りしました。いい夫婦の日といえばやっぱりこの人たちです。

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