おにぎり作戦


 フミヤもブランコも、すぐにどこかに行ってしまうため、ユート団のアジトには、下っ端たちを除けば大抵アッズーロ、カレット、そしてボスのガベラしかいなかった。
 お昼の時間、大体下っ端たちは好きな時間に気の合う団員と食べていた。幹部たちは、今後の作戦会議も兼ねて、一緒に食べることが多い。
 “幹部以外立ち入り禁止”というボードのかけられたドアを、下っ端たちはいつも興味深そうに見る。次はどんな作戦が来るのか? そう思うとわくわくしてくるのだ。

   今日もそのドアを閉めたカレットは、すでにテーブルについているガベラの機嫌が良くないことを察した。
「……ボス? どうしました?」
 別室からアッズーロも出てきて、ガベラのもとに駆け寄る。
「……食べたい……」
「えっ? あたしもうお昼ご飯作りましたよ! ほら、オムレツです! しかもミートボールつき!」
「息子の手料理が……食べたい……」
 そう言ってガベラは、深いため息をついた。
 二人は、吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
「あ、あたしの料理じゃ不満ですか」
「俺様……はカレットよりは料理してないけど……のリンゴの皮むきの出来が悪かったんでしょうか」
「そういう意味ではない!」
 はい、わかっています、と二人は心の中で返事した。
「せっかく息子が私の元に戻ってきたというのに、ご飯は一緒に食べてくれないわ、父子らしい会話もまともにできないわ……」
「ボス……」
 フミヤが戻ってきてからの、ガベラの息子への愛はすさまじい。もっとも、それを知っているのはアッズーロとカレット、それからブランコだけだが。
「とっ、とにかく! 今彼はいません。またあたしが交渉してみます! なので今日はオムレツを食べましょうよ。自信作なんですよ」
「……うむ、いただくとしよう」

「アッズーロ、わかってるわね? あたしたちの次の作戦は“息子に愛のこもったおにぎりをにぎらせよう作戦”! これで決まり!」
「カレット……随分ノリノリだな。でもボスの笑顔が見られるなら!」
「で、えーっと、フミヤはどこにいるのかしらん?」
 一瞬場が沈黙した。
「いやいやいやいや! 何も調べてないのかい? だからyouはいつまでもおやびんなんだよ!」
「その呼び方やめなさいって言ってるでしょ、おやべん! you目星はついてんの?」
「そうだなー。この前はスケッチブックも一緒に持っていたような……」
 フミヤは絵を描くことも好きである。有名な絵画の偽物を描かせようものなら、完成品は本物と偽ってもばれずに売れてしまうほどだ。
「確か、今までのスケッチ、アジトの倉庫にあったわよね? モデルになった土地さえわかれば、その他の土地を探せばいいんじゃ?」
「それが一番早いだろうな」

 結局、全てのスケッチを見た結果、彼が一番いそうな場所はホウソノシティであるとわかった。
 今回はユート団としての活動ではないから、二人は私服を着てホウソノの中心部の人ごみにまぎれた。
「天然芝と花畑の町……! きっとここにいるわね」
「じゃぁまず、そのへんから探すか」
 ひたすら天然芝のエリアを探し続け、最終的にフミヤがいたのは、崖の近くだった。
「あ、いたわー!」
「なるほど、崖から見た“古代の左腕”を描いているのか。さすが次期ボス、ハイセンスだ!」
「よし、じゃ、いくわよ! おーい! フミヤくーん!」
 趣味に浸っていたフミヤは、ひどくがっかりした顔で振り向いた。
「……何だよ」
「こっわー! youねぇ、わかってんの? ボスが心配してんのよ! そんで、ついでに、youのにぎったおにぎりが食べたいんだと!」
「おにぎりとは言ってないがな……」
 フミヤは画材をしまいつつ、呆れた表情をした。
「それだけか?」
「それだけって、youボスの気持ち考えてみなさいよー!」
「まぁまぁおやびん、落ち着いて。はしたない……」
「うっさいわね!」
 カレットを腕で制しつつ、アッズーロは、フミヤの隣にいたヌマクローに話しかけた。
「ヌマクロー、youはどう思う?」
 ヌマクローは、あたりをきょろきょろし、水溜りの近くに行った。三人はヌマクローを目で追う。
 そしてヌマクローは、泥をまるめてだんごを作った。
「ががーが!」
 きれいな三角形の泥だんごに、カレットとアッズーロは目を輝かせた。
「いやーん! ヌマクローちゃんじょうずー!」
「すごいなこれは! 五本指の人間でもなかなかできない神業だ!」
 そして二人と一匹は、フミヤの方を振り返った。
「負けてられないわよね?」
「……」

 結局、ごはんを炊いたのはカレットで、ゆかりのふりかけとザックリ混ぜたのはアッズーロ。
 それから、フミヤがしぶしぶ、それをにぎる。
 ガベラの起床前の、早朝のひと時だった。

「でーきた! これでボス、きっと喜んでくれるな!」
「ほんとよー! グッジョブ、フミヤ! これでこそ次期ボスだわ」
「それ、関係ないんじゃ……」
 フミヤの足元で、ヌマクローが笑った。彼にはこんな一面もあったのか、こんな光景を見られて嬉しいな、とでも思っているかのような笑顔だった。
「あー、でも、あたし的には、次はあれもしてほしいなー!」
「……?」
「ひらひらエプロンをつけての、お料理!」
「いい加減にしろ」


110628
comさんリクエスト“ほのぼのユート団”より。
非常に同人臭い話になりましたが、こいつらの素はこんな感じです。
アッズーロの一人称は誰の前でも“俺様”です。