後輩王子


「お前がブレーンの王子か」
 そこだけ言葉を切り取ればひどく滑稽に聞こえたが、彼女をブレーンと呼ぶのもまた一人しか思い当たらない。シオンは振り返って、その幼さの残った少年を見た。
「そうだよ。って返事で満足できる?」
「ケッ、ためらいもなく」
 その、口の悪い少年、パレスエリートのバンジローのことは、エデルから話を聞いていた。丸坊主にした微褐色肌に、ギラギラした紫の目をのせて、彼は今日も堂々とフロンティアを歩いている。
「僕は王子でいるつもりはないんだけど、まあ彼女が姫なら、ってとこかな」
「のろけろとは言っていない」
「まあ、君も、いつか誰かの王子になれればいい。それも、ブレーンになるのも、焦ることじゃない」
「何をわかったように……あっ」
 シオンは、バンジローに近づき、坊主頭を撫でる。近くで見た彼は整った顔立ちで、ダイロウシティの族長の末裔というのも頷ける。
「何しやがる!」
「やー、エデルがバンジローくんの頭は撫でたら気持ちいいって言うから」
「だからって……」
「口が悪けりゃ王子にはなれないな」
 バンジローはまた不機嫌そうな顔をしたが、毒づくそぶりだけ見せて何も言葉を続けなかった。その様子を見て、もう少し可愛い後輩でいてほしい、とシオンは思った。 


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