正直者の日常


「なあメグー」
 よく晴れた日の昼下がり、コウライはけだるい声でメグを呼んだ。
「なにさー」
「前さーオレんち母子家庭ったじゃーん」
「うんー夕ご飯ごちそうさまってよろしくー」
 よくコウライの家に遊びに行くメグは、コウライの家の事情も知っていた。たまに夕ご飯を作っては呼んでくれるコウライの母エルトロのことは、メグもかなり好きだった。
「おーそれでさー」
「なにー」
「父親帰ってきた」
「ふーん…………は?」
 ただの友達で、ふざけあっているような関係だ、互いにそこまで真面目に話し込むこともない。そのまま飄々と返事をしかけたメグは、今さっき言われたコウライの言葉を反芻し、コウライのほうを振り向いた。コウライはメグのほうは見ず、入道雲が流れる空をぼうっと見ていた。
「はー……ないよなーマジでないわー」
 メグのことは気にせず、コウライはぼやく。
「今更だよなーはーなんなんだよー」
 なにか言って励ましてあげたいのだが、どういう言葉を選んで言えばいいのか、メグにはわからなかった。ただ、「帰ってきた」ということは、再婚ではなく、実の父親とまた一緒に暮らすことになったのだろう。それは喜ぶべきことではないのか、とも思う。
 でも、この様子を見れば、当事者たる三歳年上の友達にとっては、いろいろ複雑なのだろう。
 いろいろ考えて、別に文脈に沿った返事をしなくても良いのではないか、と思い、メグは立ち上がった。
「バトルしようよ。まっさん進化したばかりで、誰かとバトルしたくてうずうずしてるし」
 コウライの返事を聞く前に、メグはまっさんをボールから出した。ひとまわり大きくなったパーティのエース、ゼブライカのまっさんが、煌々とした眼差しでコウライを見つめる。エリートトレーナーたるもの、それだけで心を掻き立てられるものだ。
「わかった、いいぜー」
 コウライは、まっさんを撫でて立ち上がる。そして、メグから距離をとってモンスターボールを一つ持った。
「お前わりといいやつだよな」
 コウライからしてみれば、これがメグの励まし方なのだということは、もうわかっていた。メグはあえてそれに素直に答えることはせず、
「ああ知らなかった? てかエリトレ様も悩むんだ」
 と言った。
「撤回だゴラァ!」
 コウライは、青空に高くボールを投げる。出てきたのは一番の相棒、ウォーグルのヤマトだった。
 ただのバトルが、今日も始まる。


 草菜さんのコウライくんお借りしました。  

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