凍てつく山と竜の家


 もうじき冬が訪れる。竜の司ゼンショウとともに生きる、メスのカイリューが合図した。
「今年はずいぶん早いな」
 住所からすれば、ナズワタリ地方ドゥクルタウンということになっているが、集落から離れ、坂をずっと登らなければたどり着けないようなところにゼンショウの家はあった。崖に面した家で、縦に長く、いかにもナズワタリ建築といった外観であった。
 窓を開けると、もうすでに凍える風が吹いている。高地となれば年中こうなのだが、カイリューにはいつから本格的に寒くなるのかがわかるのだ。
「支度しなければな」
 ゼンショウは、窓から一番下の階――倉庫を見る。その時、この山を登るにはあまりにも薄着の若者が視界に入った。
「おい、そこの若者!」
 ゼンショウがそう叫ぶも、若者の耳には届かない。
「……カイリュー、頼む」
「ドンッ」
 指示されたオスのカイリューは、目にもとまらぬスピードで崖に沿って下降した。若者の前で身を屈め、背中を指す。
「え……?」
 戸惑う若者を見て、カイリューはゼンショウを指した。
「これって、つまり、土地を荒らしたからとっ捕まえるぞ、ってこと……? いやだ、やめてくれ! 不法侵入なら謝る」  若者は逃げようとするが、いかんせん身体が衰弱して思うように動けない。カイリューはそんな若者をひょいとつかみ、背中にのせ、風の中をまた崖に沿って昇った。

 ゼンショウはしっかり窓を閉め、若者を見る。男性で、十代後半といったところだろうか。あざやかな銀髪は濡れ、赤い瞳は疲れ果てていた。
「んだよ……。不法侵入なら謝るって」
「そうではない。お前さん、どうしてここへ来たのだ」
「テメェのカイリューに連れてこられたんだよ」
「その前の話だ。なぜこのような高地に?」
「だって、このあたりってレベルの高い野生ポケモンがいっぱいいんだろ? トレーナーとして興味持つのはあたりめーだろ」 「なるほど。にしては、お前は軽装すぎる。ここより先はツンドラ……永久氷土だぞ」
 ゼンショウの言葉に、若者はぞっとした。
「なにも考えずに来たのか?」
「もういいだろ、説教を聞く気はねぇ帰らせろ」
「そういうわけにもいかないだろう。この地にも冬がやってくる。もう下山もかなわなくなるぞ」
「えっ……」
 若者の顔がみるみる青ざめる。
「トレーナーとして強くなりたいのなら、私が相手しよう。カイリュー二匹に、ほかのドラゴンポケモンもいる。腕はきくぞ」
「えーいらねぇよ! ほら、今ならまだ下山……」
 その時、びゅう、と風が吹いた。それだけで、下界の木々はうっすら白く染まる。
「うひょー……」
「帰るか?」
 ゼンショウは微笑む。
「……帰れねぇわ」
 身体に疲れが残る若者は、それを見てすぐに下山する気をなくした。
「私はゼンショウ。お前は?」
「サイキ」
「サイキ、か。この家での冬は暖かいが厳しいぞ」
「はぁ……」
「なんだその返事は!」
「はっ、はいっ!」


 69さんのサイキさんお借りしました。続きます。  

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